お店で食中毒が起きると、お金の問題は二つに分かれます。お客様への賠償と、自社の売上が止まることです。この記事では、その二つを「保険に移す分」と「自社で持つ分」に分けて整理します。

2025年、食中毒の原因施設は半分以上が飲食店

厚生労働省の統計では、2025年(令和7年)の食中毒は全国で1,172件、患者数は24,727人、死者は2人でした。原因となった施設としてもっとも件数が多いのは飲食店で、658件。事件数全体の約56%です。

食中毒が起きて、食品衛生法への違反が認められた場合などには、同法第60条にもとづき、都道府県知事(保健所を置く市などではその市長)から営業の停止や禁止を命じられることがあります。何日止まるかは、原因や規模、行政の判断によって変わります。

石垣島や沖縄では、観光と飲食が地域の仕事を支えています。離島では、代わりの仕入れ先や応援の人手をすぐ手配しにくい場面もあります。「止まる時間」を金額で見ておく意味は、本土より大きいかもしれません。

保険で移せるのは、まず「他人への賠償」

お客様の治療費や、仕事を休んだ分の損害。これらを法律上支払う責任を負ったときの備えが、生産物賠償責任保険(PL保険。売った飲食物が原因で他人に健康被害が出た場合の賠償を補う保険)や、食品営業賠償共済です。リスクを外に移す「移転」の手立てです。

ただし、自社の売上が止まった分は、賠償の補償とは別の枠です。たとえば日本食品衛生協会の食品営業賠償共済では、営業停止にともなう損失はオプション(追加で選ぶ補償)として用意されています。ただし、補償される期間や金額には上限があり、届け出などの条件もつきます。契約内容は保険会社や共済によって違います。ご自身の証券を一枚開いて確かめてください。

お詫びの対応、検査や清掃の費用、落ちた売上を戻すための販促。こうした出費が保険だけで埋まるとは限りません。埋まらない分を支えるのが手元資金、つまりリスクを自社で引き受ける「保有」です。

なお、衛生管理は起きる確率を下げる工夫です。HACCPに沿った衛生管理(食材の扱いで危ない点を見つけ、記録しながら管理するやり方)は、2021年6月から原則すべての食品事業者の義務になりました。これは厳密にはリスクコントロール(リスクを小さくする領域)であり、リスクファイナンスの中心である「移転」「保有」とは別のものです。実務では、この三つを組み合わせます。

自社で書き出してみる三つの問い

  1. もし2週間店を閉めたら、家賃・人件費・リース料などの固定費はいくら出ていくか。
  2. いまの保険や共済は、他人への賠償だけか。自社の営業停止による損失も対象か。
  3. すぐ使える手元資金は、固定費の何か月分あるか。

まとめ:先に金額、あとから保険

保険を選ぶ前に、止まったときに出ていく金額を出してみてください。金額が見えれば、どこまで保険に移し、どこから自社の現金で受け止めるかを、自分の言葉で決められます。まずは一枚の紙に書き出すところからで十分です。

参考資料

  • 厚生労働省「令和7年食中毒発生状況の概要」(食中毒統計調査)
  • 食品衛生法 第60条(営業の禁止および停止)
  • 厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化」
  • 公益社団法人日本食品衛生協会「食品営業賠償共済」案内

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

当研究所では初回のご相談を承っています。自社の「止まる時間」を金額にしてみたい方は、お気軽にお問い合わせください。