社員が自分の車で取引先へ向かう。離島ではごく当たり前の光景です。この記事では、その車で事故が起きたときに会社の責任はどうなるのか、そして備えを「保険に移す分」と「自社で持つ分」に分けて考える道筋をお伝えします。

会社の責任は、車の名義では決まらない

事故の責任は、車の名義だけで決まるわけではありません。

民法には使用者責任という決まりがあります(使用者責任=従業員が仕事中に起こした損害について、雇い主も賠償の責任を負うことがあるという考え方)。さらに、人身事故については、自動車損害賠償保障法に運行供用者責任があります(運行供用者責任=その車の運行を支配し、その利益を得ている者などが負う責任)。同法第3条は「他人の生命又は身体を害したとき」の責任を定めたもので、相手の車や建物といった物の損害はこの条文の対象ではありません。

会社がマイカーの業務使用を認めていた場合、この2つを理由に会社の責任が問われることがあります。車の名義が社員だから会社は関係ない、とは言い切れません(実際にどこまで責任が及ぶかは、使用の実態や契約条件によって変わります)。

交通事故そのものは減っています。2025年の交通事故死者数は2,547人で、前年より116人少なく、統計が残る1948年以降でもっとも少ない数でした(警察庁、2026年1月6日公表)。一方で重傷者は27,563人、前年比1.0%増でした(警察庁、2026年2月26日)。ただし、事故全体が減少傾向であることと、1件の高額な賠償に備えることは別の話です。

自賠責だけでは足りない ― 「移す」と「持つ」に分ける

車には、原則として自賠責保険への加入が法律で義務付けられています。ただし支払いには上限があります。被害者1名につき、死亡で3,000万円、ケガで120万円です。相手の車や建物といった物の損害は、そもそも対象になりません(日本損害保険協会)。

ここから先が、リスクファイナンス(risk finance=リスクへの財務的な備え)の出番です。中心は2つです。

①移転=保険などで他者に移す分 ②保有=自社の資金で持つ分

  • ①移す:社員が自分で入っている任意保険の対人賠償・対物賠償が、いくらまで出る契約になっているかを会社が確認します。会社名義でない車での事故について、会社側で補償を手当てできる保険や特約が用意されている場合もあります(補償の対象や呼び方は保険会社・約款ごとに違うため、個別の確認が必要です)。
  • ②持つ:保険で埋まらない部分です。免責金額(自己負担額=保険金から差し引かれる金額)、示談までのつなぎ、代わりの移動手段や人員の費用などが入ります。

なお「事故を起こしにくくする」取り組みは、厳密にはリスクコントロール(事故そのものを減らす工夫)の領域で、リスクファイナンスとは別です。マイカーの業務使用に関するルールづくりや、安全運転の教育、車両の点検などがこれにあたります。実務では、①移転と②保有に、こうしたリスクコントロールを組み合わせて設計します。

自社で書き出してみる

  1. 業務で自分の車を使っている社員は何人いますか。その人の任意保険の対人・対物の補償額を、この1年で確認しましたか。
  2. 自賠責や任意保険で補えない部分を、いまの手元資金でどこまで払えますか。
  3. マイカーの業務使用について、文書になったルールはありますか。

まとめ

車の名義が社員でも、責任は会社に及ぶことがあります。まずは「何人が使っているか」と「いくらまで保険が出るか」を数字にすること。それが、移す分と自社で持つ分を分ける出発点です。

公共交通が限られる島では、マイカーの業務使用は避けにくい前提です。だからこそ、先に把握しておく価値があります。

参考資料

免責事項

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

一般社団法人リスクファイナンス研究所では、マイカー業務使用を含む賠償リスクの洗い出しについて初回のご相談を承っています。