「保険で直せる」と言われたら ― 台風のあとに来る業者と、減ってしまう保険金
台風のあと、「保険で直せます」と業者が訪ねてくることがあります。何が起きているのか、そして保険を自社の備えとして働かせるために先にやることを整理します。
災害のあとに増える「保険で直せる」という勧誘
「無料で点検します」と訪ねてきて、そのまま工事を勧める。いわゆる点検商法です。国民生活センターに寄せられた点検商法の相談は、2023年度の12,550件から2025年度は19,696件に増えています(2026年5月31日現在の集計)。
日本損害保険協会も注意を呼びかけています。台風や暴風による建物の損害は、契約内容しだいで火災保険の対象になります。ただし経年劣化(年月が経って古くなること)やさびによる損害は、一般に対象外です。また、店舗のみ・事務所のみの建物や工場は地震保険の対象ではありません(地震保険は居住用の建物と家財が対象です)。保険金が出るかは、契約内容と原因で決まります。
報酬の取り方も要注意です。同協会の事例には、保険金請求のサポート報酬として、支払われた保険金の30%を求められたものがあります。別の事例では、その業者で工事をしなかった場合に保険金の4割を支払う、と言われています。
石垣島や沖縄の離島では、台風のあと被害が一度に集まります。被害が集まる場所には、勧誘も集まります。
会社の建物だと、クーリング・オフが使えないことがある
クーリング・オフ(一定期間内なら契約をやめられる仕組み)が使えるかは、建物の場所では決まりません。営業のために、または営業として結ぶ契約には、この規定は原則として適用されません(特定商取引法第26条第1項第1号)。店舗や工場の修理契約は、ここに当たる場合があります。生活用の自宅について個人が訪問販売で結んだ契約なら、原則として対象です。取引の実態から総合的に判断されるため、個別に専門家へご確認ください。
同じ社長が結ぶ契約でも、生活のためか営業のためかで扱いが変わる。サインの前に、どちらかを考えてください。
覚える順番はひとつです。業者と契約する前に、契約している保険会社か代理店へ自社から連絡する。請求にも損害の調査にも、契約者の協力が前提になっています(日本損害保険協会「損害保険の保険金支払に関するガイドライン」2026年5月改定)。
なお、経年劣化による傷みを災害で生じたものと偽って請求するのは、不正請求にあたり得ます。業者から事実と違う理由での請求を勧められたら、応じないでください。
リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の中心は二つです。保険で外に移す「移転」と、手元資金で自社が引き受ける「保有」。手数料で保険金が目減りすれば、移転したはずの分が手元に残りません。ふだんの点検や修繕先の確保は、被害そのものを小さくする工夫で、厳密にはリスクコントロール(リスクを小さくする領域)です。実務ではこの三つを組み合わせます。
自社で書き出してみる三つの問い
- 自社の建物が傷んだとき、最初に電話する先は誰か。番号はすぐ出るか。
- いまの火災保険は何が対象で、何が対象外か。経年劣化の扱いを説明できるか。
- 修理を頼める地元の業者を、災害が来る前に決めてあるか。
まとめ:保険は「請求が通る形」でこそ働く
保険に入っているだけでは足りません。誰に先に連絡し、誰に修理を頼むか。そこまで決めてあって、はじめて保険金が手元に残ります。台風の前に、社内で共有を。
参考資料
- 日本損害保険協会「住宅の修理などに関するトラブルにご注意」(2026年7月31日更新)
- 日本損害保険協会「損害保険の保険金支払に関するガイドライン」(2026年5月)
- 国民生活センター「訪問販売によるリフォーム工事・点検商法」(2026年7月31日更新)
- 消費者庁「特定商取引法ガイド」(訪問販売等の適用除外に関するQ&A)
- 財務省「地震保険制度の概要」
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。
当研究所では初回のご相談を承っています。自社の補償の範囲を一度整理したい方は、お気軽にお問い合わせください。