エンジェル税制
エンジェル税制は、創業間もないスタートアップ企業へ投資を行った個人投資家が、確定申告により所得税の優遇を受けられる国の制度です(平成9年創設・租税特別措置法等に基づく制度)。都道府県等の確認を受けた企業への投資が対象となり、最大800万円の所得控除(優遇措置Aの場合)が認められます。
※本ページはエンジェル税制の一般的な解説を目的とするものであり、特定の企業・銘柄への投資勧誘、投資助言や投資判断の推奨を行うものではありません。
エンジェル税制とは
エンジェル税制は、スタートアップ企業への資金供給を促進するために設けられた税制上の優遇措置です。個人投資家が要件を満たす企業に出資すると、投資した年と株式を手放した年のそれぞれの時点で優遇を受けることができます。
対象となるのは、中小企業等経営強化法の特定新規中小企業者等に該当し、都道府県等の確認を受けた未上場のスタートアップ企業です。確認を受けた企業へ出資した投資家には、確定申告に必要な確認書等の書類が交付されます。
- 1株式出資投資家がスタートアップ企業へ払込みにより出資
- 2確認書の交付企業が都道府県へ確認申請し、控除に必要な書類を投資家へ交付
- 3確定申告投資家が書類を添付して確定申告
- 4税の還付源泉徴収済みの所得税が還付(または納税額が減少)
※給与所得者の場合、還付金はおおむね申告後1〜2か月程度で指定口座に振り込まれます(申告内容や税務署の処理状況により前後します)。
投資した年に受けられる優遇措置
投資時点の優遇措置には次の種類があり、企業の設立経過年数などに応じて適用できるものが異なります(同一銘柄について重複適用はできません)。
| 措置 | 控除の内容 | 控除上限 | 対象企業の設立年数 |
|---|---|---|---|
| 優遇措置A | (投資額−2,000円)をその年の総所得金額から控除(寄附金控除) | 総所得金額×40%と800万円のいずれか低い方 | 5年未満 |
| 優遇措置B | 投資額の全額をその年の株式譲渡益から控除 | 上限なし | 10年未満 |
| プレシード・シード特例 | 投資額の全額をその年の株式譲渡益から控除(20億円までは非課税・取得価額の調整なし) | 上限なし(非課税は20億円まで) | 5年未満 |
| 起業特例 | 自己資金による起業(設立時出資)の全額をその年の株式譲渡益から控除(20億円までは非課税) | 上限なし(非課税は20億円まで) | 1年未満 |
※このほか外部資本比率(措置A:1/6以上、プレシード・シード特例等:1/20以上 ほか)などの要件があります。
※沖縄振興特別措置法の指定会社(経済金融活性化特別地区)を対象とする特区版エンジェル税制など、通常とは別枠の特例もあります(控除上限額や適用要件は指定時期・制度区分により異なるため、個別にご確認ください)。
優遇措置Aの節税イメージ
給与所得など総合課税の所得が大きい方ほど、優遇措置Aの効果は大きくなります。たとえば総所得金額805万円(給与年収1,000万円)の方が控除対象の上限額まで投資した場合、投資額から2,000円を差し引いた全額が所得控除となり、課税所得が大きく圧縮されます。
例:給与年収1,000万円(単身・扶養なし)の場合
所得控除の対象となる投資額の上限 322万円(総所得金額805万円×40%)まで投資すると、
確定申告での所得税の減少額(還付額)は 約59万円 になります。
| 給与年収 | 所得控除対象となる投資額の上限(総所得×40%・800万円) | 上限額まで投資した場合の節税額(所得税) |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 322万円 | 約59万円 |
| 1,500万円 | 522万円 | 約133万円 |
| 2,000万円 | 722万円 | 約233万円 |
| 3,000万円 | 800万円 | 約324万円 |
※令和8年分の所得税法令に基づく概算(復興特別所得税を含む)。給与所得のみ・扶養なし・所得控除は社会保険料(概算)と基礎控除のみを想定。実際の金額は個々の状況により異なります。
※エンジェル税制は所得税のみの制度であり、住民税には適用されません。
株式を手放した年の優遇措置
未上場スタートアップ株式の売却により損失が生じた場合、その年の他の株式譲渡益と通算できるほか、通算しきれない損失は翌年以降3年間にわたって繰越控除ができます。企業が上場しないまま破産・解散等により株式の価値を失った場合も、同様に損失の繰越が認められます。
対象となる主な要件
企業側の主な要件(優遇措置Aの場合)
- 設立5年未満の未上場の株式会社で、中小企業者に該当すること
- 設立経過年数に応じた事業活動・研究開発等の要件を満たすこと
- 外部(特定の株主グループ以外)からの投資を一定割合以上取り入れていること(優遇措置Aは1/6以上、優遇措置A-2は1/20以上など、区分により異なります)
- 大規模法人グループの所有(支配)に属さないこと
- 風俗営業等に該当する事業を行っていないこと
投資家側の主な要件
- 金銭の払込みにより、対象企業の株式を取得していること(設立時の発起人による出資や増資の引受け)
- 投資先が同族会社である場合、持株割合が大きい上位3位までの株主グループに属していないこと(大口株主でないこと)
※要件の詳細は経済産業省・中小企業庁の公表資料をご確認ください。個別の該当判断は当研究所でも承ります。
近年の主な制度拡充
| 改正 | 内容 |
|---|---|
| 令和5年度 | プレシード・シード特例・起業特例を創設。再投資分について20億円まで非課税となる措置が導入されました。 |
| 令和6年度 | 有償新株予約権(J-KISS型等)の取得金額も、権利行使によりエンジェル税制の要件を満たす場合には対象に追加されました(2024年4月1日以後の取得分)。 |
| 令和7年度 | 株式譲渡益からの再投資期間が翌年末まで延長(最大2年)。前年の譲渡益から控除する繰戻し還付制度が創設され、非課税措置には翌年末までの保有期間が設定されました(令和8年1月1日以後の取得分)。 |
ご利用にあたっての注意点
- 課税の繰延べ:優遇措置A・Bで控除した金額は株式の取得価額から差し引かれます。将来株式を売却する際は、その分譲渡所得が大きく計算されます(非課税措置を除く)。
- 住民税は対象外:エンジェル税制による控除は所得税のみで、住民税には適用されません。
- 投資リスク:未上場スタートアップへの投資であり、元本は保証されません。企業の経営状況によっては投資額の全部または一部を失う可能性があります。
- 確定申告が必要:優遇を受けるには、都道府県の確認書など所定の書類を添付した確定申告が必要です。
- 枠の共有:優遇措置Aの「総所得金額×40%」の枠は、ふるさと納税など他の寄附金控除と共通です。
よくあるご質問
- 住民税も安くなりますか?
- いいえ。エンジェル税制(優遇措置A)は所得税のみに適用され、住民税には影響しません。ふるさと納税とはこの点が異なります。
- いつ、いくら還付されますか?
- 投資した年の翌年に確定申告を行うと、おおむね1〜2か月程度で還付されます。金額は総所得金額や他の控除の状況により異なりますので、個別にご相談ください。
- いくらまで投資できますか?
- 投資自体に上限はありませんが、優遇措置Aで所得控除の対象となるのは「総所得金額×40%」と「800万円」のいずれか低い方までです。
- どのような企業が対象ですか?
- 設立から間もない未上場の株式会社のうち、事業活動・外部資本比率などの要件を満たし、都道府県等の確認を受けた企業です。事前確認制度により、資金調達前に対象該当性の確認を受けている企業もあります。
当研究所のサポート
一般社団法人リスクファイナンス研究所(長谷川賢哉公認会計士事務所)では、公認会計士・税理士がエンジェル税制に関する次のサポートを行っています。
- スタートアップ企業向け:対象要件の該当性診断、都道府県への確認申請(事前確認を含む)の支援、投資家へ交付する書類の整備
- 個人投資家向け:制度のご説明、節税効果の試算、確定申告のサポート
本ページは令和8年(2026年)7月時点の法令等に基づく一般的な情報提供を目的としており、特定の企業への投資勧誘や個別の税務判断を行うものではありません。制度の適用可否や具体的な税額は個々の状況により異なりますので、実行にあたっては必ず税理士等の専門家にご確認ください。制度の詳細は経済産業省「エンジェル税制」ホームページおよび国税庁タックスアンサーをご参照ください。