災害で休んだ日の給料 ― 払う義務と、助成が届く範囲
災害で工場や店を閉めた日、従業員の給料はどうなるのか。厚生労働省の考え方と、雇用調整助成金(休業させた分の賃金を国が一部助成する仕組み)が届く範囲を整理します。
「自社が直接こわれたか」で扱いが分かれる
厚生労働省のQ&A(令和6年2月2日)は、二つの場面を分けます。まず、自社の施設や設備が災害で直接こわれて休む場合。これは原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業にあたらないとされ、労働基準法の休業手当(平均賃金の6割以上)を払う義務は、原則として生じません。ただし、労働契約や就業規則などに休業中の賃金の定めがあれば、それに従う必要があります。これまで払ってきたものを災害時だけ払わないことは、労働条件の不利益変更にあたります(同Q&A)。
もう一つは、自社の施設は無事で、取引先の被災や交通の途絶で休む場合。こちらは原則として「使用者の責に帰すべき事由」にあたるとされ、休業手当が必要です。例外は二つの条件をどちらも満たすときだけです。原因が事業の外で起きた事故であること。通常の経営者が最大の注意を尽くしても避けられない事故であること。取引先への依存度などから判断されます。
雇用調整助成金も同じ線で分かれます。同じQ&Aは、施設等が被害を受けたこと自体は「経済上の理由」にならず、助成の対象にならないとしています。一方、取引先の被災で取引ができない、交通が途絶えて来客が減ったといった事情は「経済上の理由」にあたり得ます。
自社が直接こわれたときほど、公的な助成は届きにくい。先に知っておくのは、ここです。
助成が届いても、差額は自社に残る
雇用調整助成金は、中小企業の助成率が原則3分の2です。ただし、累計の支給日数が30日に達したあとは、教育訓練の実施率が10分の1未満だと2分の1に下がります。1人1日あたりの上限は9,110円(厚生労働省のガイドブック、令和8年8月1日現在)。日数は1年で100日、3年で150日までです。生産量や売上高などの指標が、直近3か月の平均で前年の同じ時期より10%以上減っていること、といった要件もあります。
つまり、助成が届く場面でも、助成されない部分と上限を超えた分は自社の負担です。申請の手続きもあり、入金までには時間がかかります。なお、令和8年熊本地震に伴う特例も実施されています(厚生労働省)。特例の内容は災害や地域ごとに違います。
保険で外に移せる部分もあります。日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」は、火災や水災などで建物や設備が損害を受けて休業した場合に、休業による収益の減少や営業を続けるための費用を補償する休業補償保険を挙げています。対象となる原因や費用の範囲は商品ごとに違います。
リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の中心は二つです。保険で外に移す「移転」と、手元資金で自社が引き受ける「保有」。公的な助成は、条件が合えば負担を補う制度。ふだんの耐震・防災はリスクコントロール(リスクそのものを小さくする領域)で、役割が違います。実務では組み合わせます。
石垣島や沖縄の離島では、台風で数日止まる年が珍しくありません。止まる日数に人件費をかけ算する。まずは概算でいいので、その答えを持っておく。
自社で書き出してみる三つの問い
- 1日休むと、人件費はいくら出ていくか。
- 自社の休業補償保険は、何を原因に、どの費用まで対象か。
- 義務がなくても給料を払うと決めるなら、何日分の現金を手元に置くか。
まとめ:人件費は「止まった日数」で決まる
災害の備えは、建物を直す費用だけではありません。止まっている間も人件費は出ていきます。義務の有無と助成の範囲を知ったうえで、自社が払うと決める分を数字にしておく。台風の前にできることです。
参考資料
- 厚生労働省「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」(令和6年2月2日)
- 厚生労働省「雇用調整助成金」(ガイドブック 令和8年8月1日現在/支給要領 令和8年9月10日現在)
- 厚生労働省「令和6年4月から、雇用調整助成金の制度が変わります」
- 厚生労働省「雇用調整助成金 令和8年熊本地震特例」
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ|事業中断・利益減少のリスク」
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。労務の個別の取扱いは、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士にもご確認ください。
当研究所では初回のご相談を承っています。止まったときに必要な資金を整理したい方は、お気軽にお問い合わせください。