災害で止まったら、いくら足りないか ― 国が無料で配る「判断シート」で出してみる
災害への備えは、いくら用意すればよいのか分かりにくい。そこで使える無料のシートが国から公開されています。その中身と、出てきた差額の埋め方を整理します。
「必要な資金」と「用意できる資金」の差額を出すシート
関東経済産業局は、中小企業向けに「リスクファイナンス判断シート」を公開しています。災害時に必要な資金と、いま調達できる資金。その差額を試算できるエクセルのシートで、無料です。
入れるのは、業種・従業員数・想定する災害(地震・水災)と休業期間、それに自社の数字です。シートは、休業中も出ていくお金(給与、社会保険料、賃料、買掛金、借入返済など)と、建物や設備を直す費用を積み上げ、そこから手元の現預金・受け取れる保険金・借入可能額を引きます。残りが「足りない分」です。ただし簡易な試算なので、最後は自社で数字を置き直します。
石垣島や沖縄の離島では、台風で船や飛行機が止まれば資材も人手もすぐには届きません。「何日止まるか」の置き方が本土と違います。
差額の埋め方は「移す」か「自分で持つ」か
リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の中心は二つ。保険などで外に移す「移転」と、手元資金で自社が引き受ける「保有」です。
シートが出すのは金額だけです。どこまで保険に移し、どこから自社の現金で受け止めるか。その線を引くのは経営者自身です。
国の「事業継続力強化計画」(通称ジギョケイ)の認定を受けると、保険や防災・減災設備への投資を後押しする仕組みが使えます。保険では、中小企業庁と連携する損害保険会社10社と共済団体が、認定事業者について、リスクの実態に応じた保険料・共済掛金の割引や保険料設計などの取組を行っています。内容は各社・商品ごとに違います。10社には沖縄の大同火災海上保険も入っています。認定件数は制度開始から令和7年12月末時点で92,523件です。
税制もあります。令和9年(2027年)3月31日までに認定を受けた中小企業者等(青色申告書を提出する者)が、認定日から1年以内に、認定計画に記載した対象設備(自家発電設備や止水板など。価額の下限があります)を取得等して事業の用に供した場合、特別償却が使えます。令和7年4月1日以後に取得したものは、取得価額の16%です。
ここは誤解されがちです。特別償却は、その年に多めに費用にできる仕組みです。費用にする時期が前に来るだけで、償却できる合計額は増えません。税金が戻る(還付)制度でもありません。
なお、止水板や自家発電そのものは被害を小さくする工夫です。厳密にはリスクコントロール(リスクを小さくする領域)で、保険(移転)や手元資金(保有)とは別の手立てです。実務ではこの三つを組み合わせます。
自社で書き出してみる三つの問い
- 台風や地震で2週間止まったら、給与・社会保険料・賃料・借入返済は合計いくらか。
- そのうち、いまの保険で受け取れる見込みはどこまでか。残りは手元資金と借入可能額で足りるか。
- 足りない分は、保険を増やして埋めるか、現金を厚くするか。理由を自分の言葉で言えるか。
まとめ:先に金額、あとから手立て
備えの話は、商品選びから始めると迷います。先に「足りない金額」を出せば、順番が変わります。無料なのですから、一度、自社の数字を入れてみてください。その金額が判断の足場になります。
参考資料
- 関東経済産業局「リスクファイナンス可視化ツールの開発等に関する調査」
- 近畿経済産業局「事業継続力強化計画認定制度について」(2026年2月)
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」(認定制度の概要/中小企業防災・減災投資促進税制)
- 中小企業庁「リスクファイナンスの強化に向けて連携している団体一覧」
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。
当研究所では初回のご相談を承っています。数字の置き方から整理したい方は、お気軽にお問い合わせください。