社長が決められなくなったとき、会社のお金は動くか ― 保険で移しにくいリスクの備え方
病気や加齢で社長の判断能力が落ちると、会社の決定とお金の動きが止まることがあります。保険で外へ移しにくいリスクです。何が止まり、いま何ができるかを整理します。
60歳以上の社長が、半数を超えた
全国の社長の平均年齢は60.8歳で、35年連続で過去最高を更新。60歳以上の社長は52.6%です(帝国データバンク、2025年の調査。2026年2月公表)。
65歳以上で認知症のある人は、2025年に471.6万人(65歳以上の12.9%)という推計もあります(厚生労働省の研究事業)。
止まるのは「決定」と「お金」
判断能力が落ちると、本人の意思で契約を結ぶことや、本人名義の預貯金を管理することが難しくなる場合があります。そこで使われる仕組みの一つが成年後見制度です。家庭裁判所が後見人等を選ぶ「法定後見」と、判断能力があるうちに支援者を自分で決めておく「任意後見」があります。利用者は令和7年12月末時点で合わせて259,901人(最高裁判所)。
申立ての動機で最も多いのは「預貯金等の管理・解約」。終局した事件の総数を母数にすると93.4%です。1件に複数の動機を数える集計なので、合計は100%を超えます(最高裁判所)。
会社側にも影響があります。取締役が後見開始の審判(判断能力を欠いていると家庭裁判所が認める決定)を受けると、会社との委任関係が終わり、その取締役は退任します(会社法第330条、民法第653条)。その人が代表取締役だった場合や、必要な取締役の人数を満たさなくなる場合は、新しい取締役や代表者を決める手続きが必要です(会社法第346条など)。なお、成年被後見人であること自体は、2021年3月1日施行の改正で取締役になれない理由ではなくなりました(会社法第331条の2)。
なお、成年後見は本人の財産を守る仕組みです。会社の口座を動かせるかは、会社の代表権と金融機関への届出の問題になります。
リスクファイナンスの中心は①移転(保険などで負担を外へ移す)と②保有(手元の資金で引き受ける)です。判断能力の低下は①で移しにくく、②の手元資金と、決定が止まらない段取りづくりが軸になります。なお③軽減はリスクコントロールの領域で、実務では3つを組み合わせます。
石垣島・沖縄で考えること
沖縄県の社長の平均年齢は59.7歳。三重県と並び、全国でいちばん若い水準です(帝国データバンク)。ただ、平均が若いことは備えが不要という意味ではありません。離島では手続きが本島や本土を経由する場面もあります。段取りに時間がかかる前提で考えたいところです。
次の3つを書き出してみてください。
- 社長が3か月不在になったら、振込と支払いは誰の名前で実行できますか。
- 代表者の交代手続きに必要な人(取締役・株主)は、すぐ集まれますか。
- 借入や保険金に頼らず回せる手元資金は、何か月分ありますか。
まとめ:決まらない時間を、短くしておく
判断能力の低下は、保険で移しにくいリスクです。打てる手は、止まる時間を短くすることに集中します。手元資金で引き受ける(保有)か、決定の段取りを整えておく(リスクコントロール)か。配分は会社ごとに違います。
参考資料
- 帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2025年)」(2026年2月16日公表、同年2月27日一部訂正)
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和7年1月~12月―」(令和8年3月)
- 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
- 会社法第330条・第331条の2・第346条、民法第653条(会社法第331条の2は令和元年改正、令和3年3月1日施行)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。後見などの法律手続については、弁護士・司法書士にもご相談ください。
当研究所では、経営者不在時の資金と決定の段取りについて初回のご相談を承っています。