朝、残高を見たら、知らない相手に数百万円が送金されていた。そのお金は戻るのでしょうか。2025年の年間データと、法人口座は個人口座と扱いが違うという大事な点をお伝えします。

2025年の不正送金は、約103億円

警察庁の発表では、2025年(令和7年)のインターネットバンキングに係る不正送金は4,747件、被害額は約103億9,700万円でした。手口の約9割はフィッシング(偽のメールや偽サイトでIDやパスワードを盗む手口)です。

最近はボイスフィッシング(電話を使ったフィッシング)も確認されています。犯罪グループが会社に電話をかけ、「ネットバンキングの更新手続きです」と名乗ってメールアドレスを聞き出し、そこへ偽メールを送る流れです。「銀行からの電話」と思い込めば、警戒は働きません。石垣島のような離島では、ネットバンキングが欠かせない決済手段になっている事業者も少なくありません。

法人口座は「預金者保護法」の対象ではない

偽造カードや盗難カードを使ったATMなどでの不正な払戻しから預金者を守る法律(いわゆる預金者保護法)があります。この法律の対象は個人で、会社名義の口座は入りません。さらに、ネットバンキングの不正送金そのものは、個人口座であってもこの法律の直接の対象ではありません。個人については、全国銀行協会の2008年(平成20年)2月19日の申し合わせなどに基づく補償対応が行われています。

では法人はどうか。全国銀行協会は2014年(平成26年)7月17日の申し合わせで、法人向けインターネット・バンキングの不正な払戻しについて「補償の考え方」を示しました。ただし法人への補償は、各銀行の経営判断による個別対応と位置づけられています。会社側がセキュリティ対策をとっていたかどうかも、判断材料になるとされています。

法人口座は「法律で必ず戻る」ではなく「銀行が個別に判断する」世界です。戻らない可能性を、はじめから計算に入れておく必要があります。

「移す」「持つ」、そして「防ぐ」

リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の中心は二つです。①移転=保険などで他者に移す。②保有=自社の手元資金で受け止める。被害を起きにくくする③軽減は、厳密にはリスクコントロールの領域です。実務では三つを組み合わせます。

①移転には注意点があります。情報処理推進機構(IPA)は、ビジネスメール詐欺(取引先や役員になりすました偽メールで送金させる手口)で振り込んでしまった金額は、日本国内ではサイバー保険の補償対象にならないことが多いと言われている、としています。ただし補償された例もあり、範囲は商品ごとに違います。約款や保険仲立人・代理店への確認が欠かせません。

だからこそ②保有の重みが増します。「数百万円が一時的に消えても、給与と仕入代金を払い続けられるか」が現実的な問いです。③軽減は、振込の上限額を低くする、承認を二人で行う、多要素認証を使うといった地味な運用です。その有無は、万一のときの補償判断にも関わります。気づいたときは、まず取引金融機関に連絡し、送金の停止や組戻しの相談をすることが第一歩です。

自社で書き出してみる問い

  1. 1日に送金できる上限額はいくらですか。それが一晩で消えても、翌月の資金繰りは回りますか。
  2. 振込の最終承認は何人で行っていますか。担当者が一人で完結できる状態ではありませんか。
  3. いまの保険で「だまされて振り込んだお金」は対象ですか。

まとめ

不正送金は個人の問題ではなく、会社の資金繰りの問題です。法人口座は法律で自動的に守られないぶん、「保険で移せる部分」「自社で持つ部分」「運用で防ぐ部分」を切り分けておく意味があります。まずは上限額と承認の人数を確認してみてください。

参考資料

  • 警察庁サイバー警察局「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年3月)
  • 警察庁サイバー警察局「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2025年9月)
  • 全国銀行協会「法人向けインターネット・バンキングにおける預金等の不正な払戻しに関する補償の考え方について」(平成26年7月17日)
  • 全国銀行協会「預金等の不正な払戻しへの対応について」(平成20年2月19日申し合わせ)
  • 情報処理推進機構(IPA)「ビジネスメール詐欺 FAQ」

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

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