台風や大雨で店や設備が壊れ、返済が重くなる。そんなとき、破産のほかにも道があります。この記事では「自然災害債務整理ガイドライン」の入口と、保険や手元資金との役割の違いを整理します。

破産だけが道ではない、という制度

この制度は、災害で返済が難しくなった人が、裁判所の破産手続によらずに借入を整理するための仕組みです。金融機関などが自主的に守るルール、という位置づけ。特徴は三つ。

  • 預貯金などの一部を「自由財産」(手元に残してよい財産)として残せます。範囲は被災の状況などで変わります。
  • 個人信用情報に登録されません。そのため、その後の新しい借入の妨げになりません。
  • 手続を助ける弁護士などの「登録支援専門家」の費用がかかりません(国の補助)。

事業を続ける人には、二つ目が特に大きい違いです。

使えるのは誰か。どこに申し出るか

対象となるのは、東日本大震災、または2015年(平成27年)9月2日以降に「災害救助法」が適用された自然災害で被災した、個人または個人事業者です(東日本大震災は2021年〈令和3年〉4月1日から対象に加わりました)。個人事業主の事業性ローン(商売のための借入)も含まれます。法人(会社)の債務は対象になりません。

ただし、被災しただけで使えるわけではありません。ローンを返せない、または近い将来返せなくなることが確実と見込まれることに加え、これまでの返済状況や、債権者にとっての経済的合理性など、一定の要件を満たす必要があります。

沖縄も例外ではありません。2023年(令和5年)の台風第6号では、停電に伴い沖縄県の34市町村(10市9町15村)に災害救助法が適用されました。2025年(令和7年)の台風第8号でも、7月27日に南大東村と北大東村へ適用されています。離島では停電が長引き、船も止まり、被害が重なりがちです。

手続は、原則として、最も多額のローンを借りている金融機関への申出から始まります。その同意を得たあと、登録支援専門家の支援を受けて返済条件の案をつくり、対象となる債権者すべての同意を得て、簡易裁判所の特定調停で確定させます。

運営機関によると、2026年(令和8年)6月末時点で、自然災害の案件は支援専門家への委嘱1,541件、成立679件。多い数字とは言えません。

保険や手元資金の「代わり」にはならない

リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の柱は二つ。保険などで負担を他者に移す「移転」と、手元資金で自分が引き受ける「保有」です。被害そのものを小さくする「軽減」は、厳密にはリスクコントロールという別の領域。実務では三つを組み合わせます。

今回の制度は、そのどれでもありません。被災した後に、残った借入を整理して立て直すための仕組みです。保険に入らなくてよい理由にも、手元資金を薄くしてよい理由にもなりません。備えが先、受け皿は後です。

自社で書き出してみる

  1. 災害で建物や設備が使えなくなったら、保険で戻る見込みの金額はいくらですか。
  2. 保険金が入るまでを、手元資金で何か月しのげますか。
  3. その借入は誰の名義ですか。会社名義ですか、個人・個人事業の名義ですか。

まとめ

この制度は、知っている人だけが使えます。被災してから調べ始めると、判断の時間が足りません。今日できるのは、名前を覚えておくことと、上の三つの問いに数字で答えられる状態にしておくことです。

参考資料

  • 自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「ガイドラインについて」「利用状況」(2026年6月末時点)
  • 政府広報オンライン「大規模な自然災害でローンの返済が困難になったかたへ」
  • 一般社団法人全国銀行協会「自然災害債務整理ガイドライン」
  • 内閣府(防災担当)「令和5年台風第6号の影響による停電に伴う災害救助法の適用について【第4報】」
  • 沖縄県「令和7年台風第8号に伴う災害による災害救助法の適用」

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。債務整理の可否や条件は、金融機関および弁護士等にご確認ください。

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