会社のリスクは、外からの盗難や災害だけではありません。従業員による横領や着服という「内部の不正」もあります。この記事では、昔ながらの「身元保証書」だけに頼りにくくなった今の状況と、損害を保険で移す「身元信用保険」の考え方を、やさしく整理します。

「うちに限って」が、いちばん危ない

少人数の会社では、一人の担当者が現金・通帳・帳簿・ネットバンキングをまとめて扱うことがよくあります。チェックする人がいないと、横領や着服は起きやすく、気づくのも遅れがちです。

横領や着服のリスクは、犯罪全体の件数だけでは測れません。大切なのは、自社で不正が起きやすく、見つけにくい状態になっていないかです。現金・通帳・帳簿・ネットバンキングなどの権限が一人に集中していないか、まずは自社の管理体制を点検してみましょう。

石垣島のような離島でも、少人数で回す事業所は多くあります。人手が限られるほど、一人に任せきりになりやすい。この点は、都会も島も変わりません。

「身元保証書」だけでは、守りきれない

昔からある備えが「身元保証書」です。従業員が会社に損害を与えたとき、保証人(家族など)に賠償の一部を求められる仕組みです。

2020年4月1日施行の改正民法により、個人が保証人となる根保証契約では、「極度額(きょくどがく=保証人が負う責任の上限額)」を定めなければ契約は無効となりました(出典:民法465条の2)。身元保証契約も、このルールを踏まえた極度額の設定が必要です。原則として、2020年4月1日より前に結んだ契約には改正前の民法が適用されますが、その後に合意更新した契約などには新しいルールが適用されます。今使っている身元保証書は、結んだ・更新した時期と、極度額が定められているかを確認しましょう。

期間にも限りがあります。定めがなければ原則3年、定めても最長5年までです(出典:身元保証ニ関スル法律)。そのうえ保証人にも支払える金額に限りがあります。だから身元保証書だけでは、大きな損害を取り戻せないことがあるのです。

損害を「保険で移す」という選択肢

身元信用保険は、従業員の横領・着服・詐取などで会社が受けた損害を補償する保険です(出典:各損害保険会社)。会社が契約者になり、被害を保険金で穴埋めできます。ただし、補償の対象となる人や支払いの限度額、事故の発見期限などは、契約ごとに条件が異なります。

ここで、リスクファイナンス(リスクへのお金の備え)の整理をしておきます。損害を保険に「移す」のが移転、手元資金で自前でまかなうのが保有。この二つがリスクファイナンスの中心です。いっぽう、通帳と印鑑を別々の人が管理する、現金を毎日照合するといった「そもそも起こさない工夫」は、リスクコントロール(軽減)で、少し領域が違います。実務では、この三つを組み合わせます。

保険は「起きた後のお金」を助けるだけです。まずは仕事の分担やダブルチェックで起こしにくくし、それでも残るリスクを、手元資金(保有)と身元信用保険(移転)で受け止める。この順番が現実的です。

自社で書き出してみる

  1. 現金・通帳・帳簿・ネットバンキングを、一人の担当者にまとめて任せていませんか。
  2. 身元保証書を取っているなら、極度額(上限額)を定めていますか。期間は切れていませんか。
  3. もし数百万円規模の横領が起きたら、手元資金で穴埋めできますか。保険で移す必要はありませんか。

まとめ

横領・着服は、「うちに限って」と思う会社ほど盲点になりがちです。①起こしにくくする仕組み(分担・チェック=軽減)、②手元資金(保有)、③身元信用保険(移転)。この三つを、自社の規模に合わせて組み合わせておくと安心です。まずは、お金と帳簿を一人に任せきりにしていないか、今日ひとつ確かめてみてください。

参考資料

・法務省「民法(債権法)改正」「新しい民法が適用される契約について」
・民法 第465条の2(個人根保証契約の極度額)/身元保証ニ関スル法律(e-Gov法令検索)
・各損害保険会社「身元信用保険」商品説明資料

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

当研究所では、初回のご相談を承っています。自社にどんな備えが合うか整理したい方は、お気軽にお問い合わせください。