「譲り受けた会社に隠れた問題」に備える ― 中小M&Aで使える表明保証保険という“移転”
会社を次へ引き継ぐとき、いま増えているのが「第三者への譲渡(M&A)」です。この記事では、譲り受けた会社に思わぬ問題が見つかったときに備える「表明保証保険(ひょうめいほしょうほけん)」を、やさしく整理します。リスクを保険で「移す」という考え方の一例です。
1. 会社の「継ぎ方」が変わってきた
親から子へ、という承継は当たり前ではなくなりました。帝国データバンクの調査では、2025年の後継者不在率(後継者が「いない」または「未定」の会社の割合)は全国で50.1%でした。7年連続で下がってはいますが、調査対象の約半数の会社で、後継者が不在または未定の状態です。
そのため、親族以外への引き継ぎが広がっています。社内の人への承継や、外部の会社へ譲る「M&A」も、現実的な選択肢になってきました。石垣島のような離島でも、後継者が見つからず、県外の会社が買い手になることも考えられます。
2. 「隠れた問題」を保険で移す ― 表明保証保険とは
会社を買うとき、売り手は「帳簿にウソはない」「知らない借金や訴訟はない」といったことを約束します。これを「表明保証」と呼びます。ところが、引き継いだ後で、簿外の債務や未払いの残業代などが出てくることがあります。
この、約束(表明保証)と違っていた分の損害に備えるのが「表明保証保険」です。表明保証保険には、買い手側が加入するものと売り手側が加入するものがあります。買い手側の保険では、売り手の表明保証違反によって買い手に損害が生じたとき、契約で定めた範囲で買い手が保険会社から補償を受けます。売り手側の保険では、表明保証違反について買い手から補償を求められた売り手側の損害を補償します。対象になり得る項目には、財務諸表、税金、人事労務、株式、重要な契約、訴訟などがあります(中小企業庁・保険会社の資料)。補償範囲は商品や案件によって異なります。
買い手側の表明保証保険では、補償の上限額は案件ごとに決まりますが、一般的には買収価格の10〜20%程度に設定されることが多いとされています。かつては最低保険料が高く、中小の取引では使いにくいものでした。いまは中小向けの簡易型も登場しています。たとえば東京海上日動が2022年に販売を開始した「国内M&A保険Light」は、全国の保険代理店で取り扱える商品として、最低保険料50万円、支払限度額は1,000万円から設定できるとされました(同社リリース)。金額や条件は商品・案件によって異なります。
リスクファイナンスの中心は、保険などで外へ「移す(移転)」ことと、手元資金などで自分が「抱える(保有)」ことの2つです。買収前に問題を洗い出す調査(デューデリジェンス=買う前の企業チェック)は、リスクを「軽減」する取り組みで、正確にはリスクコントロールの領域です。実務では、この3つを組み合わせて使います。
ただし、保険は万能ではありません。すでに分かっている問題や、契約でカバー外とした項目は払われないのが一般的です。まず買収前の調査で問題を洗い出し、残るリスクの一部を保険で移す、という順番になります。特定の商品が誰にでも合うわけではない点にも注意してください。
自社に置きかえて、次の点を書き出してみてください。
- もし会社を譲る/継ぐなら、いちばん怖い「隠れた問題」は何ですか。(例:未払い残業代、簿外の保証債務)
- その損害が出たとき、誰がいくらまで負担しますか。手元資金で抱えるか、保険で移すか。
- 買収前の調査(デューデリジェンス)に、どこまで費用と時間をかけられますか。
まとめ
後継者難のなか、M&Aは事業を残す一つの道です。譲り受けた会社の「隠れた問題」というリスクは、調査で減らし、残りを保険で移すことができます。表明保証保険は、その「移す」を担う新しい選択肢のひとつです。まずは、自社にとって何がいちばん怖いのかを言葉にすることから始めてみてください。
参考資料
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日)
- 中小企業庁「取引の安全・安心の確保(補足資料)」(令和3年3月15日)
- 東京海上日動火災保険「中小M&A向け表明保証保険(国内M&A保険Light)の販売開始」(2022年5月19日)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士・M&A支援機関等の専門家にご相談ください。
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