会社が損害賠償を求められる話はよく聞きます。でも「役員個人」が名指しで請求されることもある――そう聞くと、少し身構えるかもしれません。この記事では、その仕組みと、備えの一つである「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」の基本を、中小企業の目線でやさしく整理します。

「役員個人」に賠償が及ぶことがある

会社の役員(取締役や監査役など)は、仕事の判断や管理について、個人として責任を問われることがあります。入口は大きく三つです。

一つ目は、株主が会社に代わって役員を訴える「株主代表訴訟」です。会社に損害が出たとき、株主が「役員が賠償すべきだ」と求める手続きです。上場企業だけの話に見えますが、株主が親族や少数の出資者でも起こり得ます。

二つ目は、取引先など「会社の外の人」からの請求です。会社法は、役員が職務について悪意(わざと)や重い過失があった場合に、第三者へ生じた損害を賠償する責任を負うことがあると定めています(第429条1項)。

三つ目は、社内の労務トラブルの管理責任です。従業員のハラスメントや不正、情報漏えいなどをめぐって、役員個人の対応が問われる場面です。

いずれも、最後に責任が認められるかどうかにかかわらず、「請求を受けるだけ」で弁護士費用などの負担が生じます。金額が大きくなれば、個人の財産だけでは払いきれないこともあります。

会社法で手続きが明確に ― 保険で「移す」という選択肢

こうした役員個人のリスクに保険で備える仕組みが、「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」です。役員が賠償責任を負ったり、請求を受けて争う費用がかかったりしたときに、保険金でその損害をまかなう商品です。補償の範囲や免責(保険金が出ない場合)は、商品ごとに異なります。

2021年3月1日に施行された改正会社法では、会社がD&O保険を契約するときの手続きが、はっきり条文に書かれました(第430条の3)。契約の内容を決めるには、株主総会(取締役会がある会社は取締役会)の決議が必要です。契約を更新する場合も、原則として改めて決議が必要になります。

リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の言葉でいうと、D&O保険は「移転」――つまりリスクを保険会社に移す手立てです。一方、社内規程やハラスメント研修、意思決定の記録づくりなどは「リスクコントロール(軽減)」で、保険とは別の領域になります。実務では、備えを保険(移転)だけに頼らず、手元資金(保有)や社内の仕組みづくりと組み合わせて考えます。

事業承継やM&Aで、社外から役員を迎える場面も増えています。引き受ける側が、就任の条件としてD&O保険を求めることもあります。石垣島や沖縄の同族会社でも、代替わりの局面では他人事ではありません。

自社にあてはめて、書き出してみましょう。

  1. 自社の役員が、株主・取引先・従業員のどこから責任を問われ得るか、思い当たる場面はありますか。
  2. いまD&O保険に入っていますか。入っている場合、補償の範囲と、更新時の決議はできていますか。
  3. 保険(移転)だけでなく、社内規程や記録づくり(リスクコントロール)は整っていますか。

まとめ

役員個人に賠償が及ぶ入口は、株主・第三者・労務管理の三つ。中小企業や同族会社でも起こり得ます。会社法430条の3で、会社がD&O保険を契約するときの手続きが明文化されました。まずは「自社の役員が、どこから・どんな請求を受け得るか」を書き出すところから始めてみてください。答えは一つではありません。自社の実情に合わせ、専門家と一緒に考えるための足場にしてください。

参考資料

  • 会社法 第430条の3(役員等のために締結される保険契約)/第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)(e-Gov法令検索)
  • 法務省「会社法の一部を改正する法律(令和元年改正)」 施行日:2021年(令和3年)3月1日
  • 各損害保険会社「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」商品案内(2025年始期契約用ほか)

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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