仕事中のケガや病気に、会社はどこまで備えられているでしょうか。政府の労災保険(労働者災害補償保険。仕事が原因のケガ・病気などを補償する公的な保険)は心強い仕組みです。ただ、従業員や遺族から会社が受ける「損害賠償請求」まで、すべて政府労災でカバーされるわけではありません。この記事では、政府労災でカバーされる範囲と、会社に残るリスク、そしてそれを保険で移す考え方を、やさしく整理します。

政府労災がカバーするもの、しないもの

まず前提から。仕事が原因のケガや病気には、政府労災から給付が受けられます。治療費(療養の給付)や、休んだ間の収入の一部(休業の給付)のほか、障害が残ったとき、亡くなったときの遺族への給付など、幅広い内容があります。従業員を1人でも雇えば、原則として加入する土台の備えです(ごく一部の小規模な農林水産業などに例外があります)。

ただし、政府労災は「従業員への給付」の仕組みです。金額にも限りがあります。慰謝料(精神的な苦痛に対して払うお金)は、対象外です。休業の給付も、失った収入の全額までは出ません。この「埋まらない差」が、あとで問題になります。

会社に残る「賠償リスク」を、保険で移す

会社には、従業員が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)があります。これを怠ったことなどにより会社が法律上の損害賠償責任を負う場合、従業員や遺族から損害賠償を請求されることがあります。その際、労災給付と同じ性質の損害については調整されますが、慰謝料など政府労災では補われない損害や不足分について、会社の賠償責任が残ることがあります。

労働災害は、いまも年間13万人を超える規模で発生しています。2025年(令和7年)の労働災害による死傷者数(新型コロナを除く休業4日以上)は13万5,333人で、前年より385人減りました。死亡者数は700人で、過去最少となっています(厚生労働省・確定値)。

精神障害(心の病)で労災と認められる件数も増えています。2025年度(令和7年度)に、業務が原因の精神障害で労災と認められた(支給決定された)件数は1,082件で、前年度より26件増えました。発病のきっかけで最も多いのは、上司などからのパワハラ(職場での嫌がらせ)で222件でした(厚生労働省)。

政府労災は「従業員への給付」の仕組みです。「会社が負う賠償」を埋める仕組みではありません。ここに、会社側の備えが必要になります。

こうした「会社に残る賠償リスク」を外に移す手立てが、政府労災に上乗せする任意の保険です。中心となるのが「使用者賠償責任保険」で、会社が法律上の損害賠償責任を負ったときの賠償金や、訴訟など解決にかかる費用に備えます。また、会社が独自に定めた補償の規程(法定外補償規程)に基づいて従業員や遺族へ支払う補償金に備える「法定外補償保険」もあり、両方を組み合わせた保険もあります。補償の内容や支払いの限度額は、商品や契約によって異なります。

これはリスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)でいう「移転」(保険で外に移すこと)にあたります。手元資金を厚くしておく「保有」(自分で受け止める備え)や、安全対策で事故そのものを減らす「リスクコントロール(軽減)」とは、役割が違います。実務では、この3つを組み合わせます。まず安全対策で事故を減らし、それでも残るリスクを保険と手元資金で受け止める、という順番です。

石垣島のような離島では、代わりの人材の確保が難しい場合もあります。従業員一人ひとりの安全と、もしもの備えは、会社の体力を大きく左右します。

自社で書き出してみる

  1. 自社は政府労災に加えて、賠償に備える「上乗せの補償」に入っていますか。契約内容を確認できますか。
  2. 従業員に大きな事故があった場合、賠償や当面の資金を、会社は手元資金でまかなえますか。
  3. 事故そのものを減らす安全対策(設備・教育・労働時間の管理)は、いま十分でしょうか。

まとめ

政府労災は土台ですが、会社が負う賠償までは埋めてくれません。まず安全対策で事故を減らし、残るリスクを「保険(移転)」と「手元資金(保有)」で受け止める。この全体像を一度、自社にあてはめて考えてみてください。

参考資料

・厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」(令和8年5月27日公表)
・厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』」(令和8年7月15日公表)
・厚生労働省「労災補償」
・日本損害保険協会「使用者賠償責任保険とは?補償内容や必要性、加入時のポイントを解説」(令和8年3月9日)

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・社会保険労務士・税理士等の専門家にご相談ください。

労災の備えや、会社に残る賠償リスクの整理について、当研究所では初回のご相談を承っています。まずはお気軽にお声がけください。