この記事では、従業員の退職金を社外に積み立てる国の制度「中小企業退職金共済(中退共・ちゅうたいきょう)」の仕組みと、気をつけたい点を、やさしく整理します。退職金は「将来払うお金」です。備え方を知る手がかりにしてください。

退職金は「将来の約束」というリスク

就業規則や社内の慣行で退職金を約束していれば、それは会社が将来払うお金です。会計では「負債(将来の支払い義務)」として意識します。

ふだんの資金繰りが回っていても、退職が重なった年に現金が足りない、ということは起こります。だから、あらかじめお金を「よけておく」考え方が役に立ちます。

リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の中心は、二つあります。ひとつは保険などで外に移す「移転」。もうひとつは自分でお金を用意しておく「保有」です。退職金の積み立ては、この「保有(資金の確保)」に近い手立てです。保険とは役割が違います。

中退共の仕組みと、気をつけたい点

中退共は、中小企業退職金共済法にもとづく国の退職金制度で、独立行政法人 勤労者退職金共済機構が運営しています。会社が毎月の掛金を払い、従業員が辞めるときに、機構から本人へ退職金が直接支払われます。加入できるのは中小企業で、業種ごとに資本金や従業員数の上限があります。社長や個人事業主本人は入れません(従業員のための制度です)。従業員は原則として全員加入させます(試用期間中の人や短時間労働者などは、一定の場合に対象から外せます)。なお、掛金を納めた月数が11か月以下だと、原則として退職金は支給されません。12〜23か月では、原則として掛金の総額を下回ります(通算制度の利用や死亡退職など、取扱いが変わる場合もあります)。長く積むほど有利になる仕組みです。

主なポイントを、やさしくまとめます。

  • 掛金は月5,000円〜30,000円(16種類)から、従業員ごとに選べます。週の労働時間が短いパートなどは、2,000円・3,000円・4,000円も選べます。
  • 掛金は会社が全額負担し、法人なら全額を損金(個人事業なら必要経費)にできます。税金の計算のもとになる利益(課税所得)を、その分だけ小さくできます。※「税金が戻る(還付)」わけではありません。
  • 会社が中退共に新しく加入すると、原則として加入の4か月目から1年間、掛金の半分(従業員1人あたり月5,000円まで)を国が助成します。短時間労働者向けの2,000円・3,000円・4,000円の掛金には、それぞれ月300円・400円・500円が上乗せされます。ただし、同居の親族だけを雇う事業主などは対象外です。すでに加入した会社が従業員を追加しても、新しい助成期間は始まりません。

気をつけたい点もあります。積み立てたお金は、会社の資金繰りには使えません。掛金を減らすには従業員の同意などが必要で、原則として減らしにくい仕組みです。退職金は会社ではなく従業員へ直接支払われます。手元の現金を厚くしておく「保有」とは、別ものだと分けて考えてください。

掛金を損金にできる点や国の助成は、あくまで「負担を軽くする助け」です。保険(移転)や手元資金(保有)の代わりになるものではありません。これら三つを組み合わせて考えるのがおすすめです。

人手が集まりにくい石垣島や沖縄の離島では、「退職金がある会社」は、人を採り、長く働いてもらうための足場になります。小さな掛金からでも始められます。

自社で書き出してみる

  1. 自社は退職金を約束していますか。約束しているなら、いま全員が辞めたら総額いくら必要か、ざっくり書き出してみましょう。
  2. その支払いに使えるお金を、社外に積み立てていますか。手元現金だのみになっていませんか。
  3. 「移転(保険)」「保有(手元資金)」「積み立て(中退共など)」の三つを、いまどう組み合わせていますか。

まとめ

退職金は将来の約束であり、備えのないままでは資金繰りのリスクになります。中退共は、社外に少しずつ積み立てて備える国の制度です。まずは「いくら必要か」を書き出すところから始めてみてください。

参考資料

  • 中小企業退職金共済事業本部(中退共)「制度の特色」「掛金」「掛金の助成」「退職金計算の方法・考え方」(chutaikyo.taisyokukin.go.jp)
  • 独立行政法人 勤労者退職金共済機構
  • 厚生労働省「中小企業退職金共済制度」

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。掛金や助成の最新の内容は、中退共本部の公式情報をご確認ください。

当研究所では、退職金の備えや資金繰りについての初回相談を承っています。お気軽にお声がけください。