「もしものとき」と聞いて、多くの社長がまず思い浮かべるのは、”亡くなったとき”の備えかもしれません。でも、同じく見落とせないのが、「生きているけれど、長く働けない」という状態です。病気やケガ、心の不調で数か月休む。そのあいだの収入や資金繰りを、あなたの会社は支えられるでしょうか。この記事では、働けなくなるリスクの公的な下支えと、その”すき間”を保険と手元資金でどう埋めるかを整理します。

「死」には備えても、「働けない」は見落とされがち

社長にもしものことがあったときの備え(生命保険など)を用意している会社は少なくありません。一方で、”生きているが働けない”リスクは手薄になりがちです。心の不調も、その一つ。厚生労働省の「令和7年度 過労死等の労災補償状況」(2026年7月公表)では、仕事が原因で精神障害を発病し労災と認められた件数が1,082件となり、前年度より26件増えて、7年連続で過去最多となりました。発病に関わった「出来事」別では、上司などからのパワーハラスメント(嫌がらせ)が222件で最も多くなっています。だれにでも、長く仕事を離れる可能性はあります。

会社員の下支え「傷病手当金」――手厚いが、給料の全額ではない

会社員(健康保険の被保険者本人)が、業務外の病気やケガの療養で働けなくなり、連続する3日間の待機(休んだ日が続くこと)を経て4日目以降も休み、その間に十分な給与が支払われないなどの要件を満たすと、「傷病手当金」(健康保険から出る、休業中の生活費)を受け取れます。1日あたりの金額の目安は、休む前のおおよその月給を日額に直した額の、およそ3分の2。つまり、給料の満額ではありません(給与が一部出る場合は、その差額が支給されます)。受け取れる期間は、支給が始まった日から通算して1年6か月までです(2022年1月の改正で「通算」に変わり、いったん復職をはさんでも、残りの期間を使えるようになりました)。心強い制度ですが、要件があること、そして「3分の2」「1年6か月まで」という限界は知っておきたいところです。

法人の社長と個人事業主では、公的な下支えが違う

立場によって、公的な下支えは変わります。法人の社長・役員は、健康保険の被保険者になっていれば、要件を満たす場合に傷病手当金の対象になり得ます(ただし、休んでいる間も役員報酬が満額出ていると、不支給や差額になります)。一方、個人事業主・フリーランスの多くは国民健康保険に入っており、傷病手当金は一律に支払われる給付ではありません。加入先が条例や規約で独自に設けている場合もあるので、まずは「自分の保険に傷病手当金があるか」を確かめる必要があります。石垣島など離島では、専門的な治療のために本島や県外の病院へ通うこともあり、仕事を離れる期間が読みにくい面もあります。

この”すき間”を埋める考え方が、リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)です。整理すると、①保険で外に移す(移転)、②手元資金で持ちこたえる(保有)、③健康管理などで起きにくくする(軽減。これは正しくはリスクコントロールの領域です)――この組み合わせになります。①の保険には、損害保険会社の「所得補償保険」や、生命保険会社の「就業不能保険」などがあります。いずれも働けないあいだの収入減に備える商品ですが、「働けない」の定義、対象となる病気やケガ、受け取りが始まるまでの待機期間(支払対象外期間)、受け取れる期間の長さは商品ごとに違います。とくに心の不調(精神疾患)は、対象外の商品や、対象でも受取期間に上限がある商品があります。契約内容をよく確かめ、②の手元資金と合わせて考えるのが現実的です。特定の商品をおすすめするものではありません。

自社で書き出してみる

  1. もし社長が半年働けなくなったら、会社の資金繰りと家計は、何か月もちますか。
  2. 従業員が長期の療養に入ったとき、収入の下支えや、復職の仕組みは用意されていますか。
  3. 自分が加入する公的医療保険に傷病手当金はありますか。ない場合、その期間の収入をどう補いますか。

まとめ

「働けなくなる」リスクは、事業と家計の両方に響く、見落とされやすい備えどころです。健康保険の被保険者本人には傷病手当金という下支えがありますが、要件があり、給料の全額ではなく、期間にも上限があります。個人事業主・フリーランスなどは、加入する制度によって傷病手当金がない場合もあります。まずは”何か月もつか”を数え、公的な下支え・保険(移転)・手元資金(保有)を組み合わせて、すき間を埋めておきましょう。

参考資料

  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
  • 厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(2026年7月15日)
  • 公益財団法人 生命保険文化センター「就業不能などで働けなくなったときのために」
  • 日本損害保険協会「所得補償保険は、どのような保険ですか」

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

当研究所では、「働けなくなるリスク」を含むリスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)について、初回のご相談をお受けしています。