「人手不足倒産」が過去最多 ― 保険で移しにくい“人が採れない”リスクに、中小企業はどう備えるか
「人が採れない」「従業員が辞めて仕事が回らない」「人件費の上昇に耐えられない」。こうした人手不足を原因に、会社が倒産に追い込まれる例が増えています。この記事では、帝国データバンクが「人手不足倒産」として集計した2025年の件数と、保険では移しにくいこのリスクへの備え方を、やさしく整理します。
数字が示す「人手不足倒産」
まず、言葉の意味から。「人手不足倒産」は、従業員の退職や採用難に加え、人件費の高騰も原因に含む、帝国データバンクの調査上の分類です(法令で決まった倒産の種類ではありません)。その2025年の件数は427件でした。前の年より85件(24.9%)多く、年間で初めて400件を超えました。3年連続で過去最多です(負債1,000万円以上・法的整理が対象)。
特徴は二つあります。一つは、業種の偏りです。建設業が113件、物流業が52件と、どちらも過去最多でした。もう一つは、従業員規模です。全体の77.0%(329件)が従業員10人未満でした。人数が少ない会社ほど、一人の退職が経営に大きく響きます。
石垣島や沖縄の離島でも、募集をかけても人が集まらない、という声をよく聞きます。人手不足は、都市だけの話ではありません。
保険で移しにくいなら、どう備えるか
火災や事故は、保険会社にリスクを引き受けてもらえます(これを「移転」といいます)。でも「人が採れない」というリスクは、保険で外に移すのが難しい種類のものです。ここが、ほかのリスクと大きく違う点です。
リスクファイナンス(リスクによる金銭的な影響への備え)の柱は、「①移転(保険などで外に移す)」と「②保有(自分の資金で負担する)」の二つです。「人が採れない」こと自体を保険で補償するのは難しいため、財務面の備えは②の保有が中心になります。賃上げや採用費、売上の落ち込みに耐えられる手元資金を、先に確保しておく、という考え方です。
ただし、人手不足への対策の中心は、原因そのものを小さくする「軽減」です。これは厳密には保険やお金の話(リスクファイナンス)ではなく、リスクを小さくする対策(リスクコントロール)の領域にあたります。採用や待遇の見直し、従業員の定着、仕事の標準化や多能工化、外注、省力化などを進めます。手元資金という備え(保有)は、こうした対策が実を結ぶまで会社を支える役割だと考えると、整理しやすくなります。実務では、この移転・保有・軽減の三つを組み合わせます。
軽減策の一例が、省力化への投資です。国の「中小企業省力化投資補助金」には、カタログに載った製品(配膳ロボットや一定のセルフレジなど)を選ぶ「カタログ注文型」と、個別の設備導入やシステム構築を支援する「一般型」があります。人に頼る作業を減らせれば、採用難の影響もやわらぎます。ただし補助金は原則あと払い(費用をいったん自社で払い、実績報告のあとに交付)で、対象経費・補助率・上限額・申請時期は類型や申請時点によって変わります。また、原則として交付決定より前に発注・契約したものは対象外になります。使う前に、手続きの順序と、最新のカタログや公募要領を必ず確かめてください。
次の問いに、自社の言葉で答えてみてください。
- 主力の従業員が一人辞めたら、仕事は何日で元に戻せますか。代わりになる人はいますか。
- 賃上げや採用にあてられるお金(手元資金)は、今どのくらいありますか。
- 人に頼っている作業のうち、機械やソフトで置き換えられそうなものはどれですか。
まとめ
人手不足倒産は3年連続で過去最多です。しかも、その多くが小さな会社で起きています。「人が採れない」リスクは保険で移しにくいぶん、採用・定着・省力化でリスクそのものを小さくする工夫(軽減)と、それを支える手元資金という備え(保有)を、早めに組み合わせておくことが助けになります。答えは会社ごとに違います。まずは自社の足元を書き出すことから始めてみてください。
参考資料
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」(2026年1月8日)
- 中小企業庁・中小機構「中小企業省力化投資補助金」(公式サイト)
- 中小企業庁「2025年版 中小企業白書」
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。補助金の要件は、制度改定や公募回によって変わるため、申請前に必ず最新の公募要領をご確認ください。
当研究所では、人手不足を見据えた手元資金や備えの考え方について、初回のご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。