「自分にもしものことがあったら、会社はどうなるだろう」。つい後回しにしがちな問いです。この記事では、経営者に万一があったときにまず何が起きるのか、そして会社のお金を止めないための「事業保障資金」(=社長に万一があっても当面会社を回すためのお金)をどう考えるかを、やさしく整理します。答えは、記事ではなくあなた自身が出すもの。そのための足場をお渡しします。

なぜ「社長の万一」が会社のお金を止めるのか

中小企業や家族経営の会社では、社長ひとりに仕事も信用も集まっていることが多いものです。取引先との関係も、銀行との話も、社長が中心。だからこそ社長が突然欠けると、売上より先に「お金の流れ」が止まりやすくなります。

背景には、経営者の高齢化があります。帝国データバンクの調査では、2025年の社長の平均年齢は60.8歳で、35年連続で過去最高を更新しました。さらに、後継者が決まっていない会社の割合(後継者不在率)は全体で50.1%、小規模企業では57.3%です。近年は改善傾向にありますが、それでもなお半数の会社で「次」が決まっていません。

石垣島のような離島では、この傾向はより身近かもしれません。取引先や利用できる金融機関が限られ、社長個人への依存が高くなっている会社もあります。「あの人がいたから回っていた」という状態は、強みであると同時に、備えを考えたいポイントでもあります。

「いくら必要か」は積み上げで考える

では、いくら備えればよいのでしょうか。生命保険文化センター(生命保険の中立的な情報を出す公益財団法人)は、「支出見込額」から「収入見込額」を引いて、足りない分を必要な備えとする考え方(必要保障額積み上げ方式)を紹介しています。会社の備えも、発想は同じです。

会社の必要額も、基本は「社長の不在によって出ていくお金」から「すでに使えるお金」を差し引いて考えます。出ていくお金には、当面の借入返済や買掛金、家賃・人件費などの固定費、売上の落ち込みを乗り切る運転資金、後継者や代わりの人を迎える費用などがあります。死亡退職金を出す予定なら、その原資は別に考えます。そこから、現預金や回収できる売掛金、すでに入っている保険などを差し引いた不足分が、事業保障資金の一つの目安になります。

とくに注意したいのが、借入に社長個人の保証(経営者保証)が付いている場合です。この保証債務も原則として相続の対象になり、相続放棄などをしなければ相続人が引き継ぐ可能性があります。ただし、相続放棄をすれば、預金や自宅などの財産とともに保証債務も引き継ぎません(相続放棄は、原則として自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申し出ます)。また、継続的な借入を保証する契約(個人根保証)では、保証人が亡くなった時点で保証の対象になる元本(返済が残っている借入の元金)が確定し、その後の新たな借入まで無制限に引き継ぐわけではありません。実際の範囲は、保証契約書と借入残高で確かめる必要があります。それでも、会社の資金繰りと遺されたご家族の生活が同時に揺らぐ可能性がある点は、早めに備えておきたいところです。

リスクファイナンスの中心は「①移転(保険などで外に移す)」と「②保有(手元資金でみずから抱える)」の二つです。備えを減らす工夫(③軽減)は、厳密にはリスクコントロールという別の領域にあたります。実務では、この三つを会社の状況に合わせて組み合わせます。

事業保障資金も同じで、「保険(移転)だけ」「手元資金(保有)だけ」ではなく、両方をどう組み合わせるかを考えます。手元資金には、すぐ自由に使える良さがあります。保険は、保険料を払うことで必要な保障額を準備できる手段ですが、保険料や入れるかどうかは、年齢・健康状態・保障期間・商品によって変わります。もう一つ大切なのが、保険金を誰が受け取るかです。遺族が受取人の契約では、保険金は原則として会社のお金にはなりません。会社が受取人となる契約なら、受け取った保険金を会社の資金に使えます。ただし、受け取った死亡保険金は法人税の計算上の利益になります。それまで保険料を資産として積み立てていた場合は、その積立額(帳簿価額)を取り崩し、保険金との差額(保険差益)が課税の対象です。積み立てがない契約なら、保険金がそのまま利益になります。実際の税負担は、この差益のほか、その年の他の損益や繰越欠損金、死亡退職金の扱いによって変わります。保障額は、税引後に会社が使える金額まで試算して決める必要があります。

まとめ ― まず「自社の数字」を書き出してみる

大切なのは、商品を選ぶことより先に、自社の数字を知ることです。あわせて、社長が不在のとき誰が意思決定し、銀行手続きや支払いを行うのか(代表者の選定や印鑑・ネットバンキングの管理)も、資金繰りを止めない備えになります。次の問いを、決算書や借入の明細を横に置いて書き出してみてください。答えが出なくても、書き出すこと自体が第一歩になります。

  1. いま、当面返す必要のあるお金(短期の借入・買掛金など)は、合計いくらありますか。そのうち、社長個人の保証が付いているものはどれですか。
  2. 売上がしばらく止まっても出ていく固定費(家賃・人件費など)は、月いくらですか。何か月分を手元で持っておきたいですか。
  3. その必要額に対して、いまの手元資金と保険で、どこまでまかなえていますか。足りない分は「保有(手元資金)」と「移転(保険)」のどちらで埋めますか。

数字が見えてくると、「何となく不安」が「ここが足りない」に変わります。そこまで来れば、専門家に相談するときの話も具体的になります。

参考資料

・帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2025年)」
・帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」
・生命保険文化センター「万一の際に必要な保障額の算出方法と具体例」
・e-Gov法令検索「民法」(個人根保証・第465条の4)
・裁判所「相続の放棄の申述」
・国税庁(法人が受け取る生命保険金の取扱い)

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

当研究所では、事業保障資金の考え方や手元資金と保険の組み合わせについて、初回のご相談を承っています。まずは自社の数字を一緒に書き出すところから、お気軽にお声がけください。