経営者自身の「退職金」はどう用意する? ― 廃業・引退に備える小規模企業共済
「会社を続けている間は走り続けても、自分が引退したあとのお金は後回し」。そんな経営者は少なくありません。この記事で分かることは、次の3つです。① なぜいま「経営者自身の備え」が要るのか、② 小規模企業共済という制度のしくみ、③ 使う前に確かめたい注意点。
なぜ「経営者自身の備え」が今テーマなのか
会社や事業をたたむ「休廃業・解散」が増えています。東京商工リサーチによると、2025年は過去最多の6万7,210件でした。やめた経営者は70代が最も多く、80代以上が初めて3割を超えています。休廃業・解散は「倒産(資金繰りに行き詰まって倒れること)」とは別に集計される退出です。ただし、すべてが余力のあるうちの自主的な廃業とはかぎりません。2025年は直前期が黒字の企業が52.8%、赤字の企業も47.2%を占めました。高齢化や後継者不在に加え、業績の厳しさを抱えたまま事業を終えるケースも含まれます。
そのとき問題になるのが、経営者自身の手元に残るお金です。従業員には退職金の制度があっても、社長個人には自動的には用意されません。引退や廃業に向けて、自分の「退職金」を自分で積んでおく発想が要ります。
石垣島でも、後継者がいないまま高齢で店を閉じる例は身近です。「まだ元気なうちに、区切りをつけたい」——その選択を、お金の面から支える備えを考えておきたいところです。
小規模企業共済とは
国の機関(中小企業基盤整備機構)が運営する、小規模企業の経営者・役員・個人事業主のための積立の制度です。ひとことで言えば「社長のための退職金づくり」。加入者は全国で約169万人います(2025年3月末時点)。
掛金は月1,000円から7万円まで、500円単位で選べます。あとから増やしたり減らしたりもできます。大きな特徴は税金です。加入者本人が払った掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として、その人の所得から差し引けます(所得控除。税金の計算のもとになる所得を減らせるしくみ)。通常、月額7万円を12か月払う場合は年間84万円です。なお、加入した年に1年以内の前納掛金(先に納める掛金)をまとめて払うと、その年の控除額はこれを上回ることもあります。ただしこれは加入した個人が受ける控除で、会社の損金や個人事業の必要経費になるものではありません。
受け取るときの税金にも配慮があります。廃業や会社の解散、役員の退任といった制度上の事由で一括受け取りをする場合は、原則として「退職所得」として扱われます。対象となる共済金について、60歳以上・受取額300万円以上などの要件を満たして分割で受け取る場合は「公的年金等の雑所得」です。ただし、事業を続けたまま自分の都合で解約する場合などは扱いが異なり、65歳未満では「一時所得」になることがあります。受け取り方と理由によって税の区分が変わる点に注意しましょう。実際の負担は、他の退職金や年金、年齢などによっても変わります。リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)で言えば、これは保険に「移す」のではなく、税制優遇を使って将来資金を計画的に積み立てる「保有」に近い備えです。
使う前に確かめたい3つのこと
よい面だけでなく、注意点も一緒に押さえておきましょう。
- 元本割れに注意:自分の都合で任意に解約する場合、掛金を納めた期間が12か月未満だと解約手当金は受け取れません。20年(240か月)未満だと、原則として払った掛金の合計を下回ります。20年以上でも、途中で増やしたり減らしたりした分は元本割れすることがあります。長く続ける前提の制度です。
- 入れる会社の条件:加入する時点で、業種ごとの「常時使う従業員数」の要件があります。建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業や、宿泊業・娯楽業などは20人以下。卸売業・小売業と、宿泊業・娯楽業を除くサービス業は5人以下です。ここでいう従業員には、役員・家族従業員・パート・アルバイトなどは含みません。まず自社と加入する人が要件を満たすか確かめます。
- 一つに頼りすぎない:これは備えの一つです。手元資金や保険、事業承継の準備と組み合わせて考えると、より安心です。
「税金が軽くなるから」だけで判断すると、途中でやめざるを得なくなったときに損をすることもあります。何年続けられそうかを、無理のない金額で見積もることが大切です。
自社で書き出してみる設問
- 自分が引退・廃業したとき、手元にいくら残る見込みか、いちど書き出してみる。
- 自分の収入や生活費を踏まえ、毎月いくらなら無理なく積み立てられそうか。
- 退職金・保険・手元資金のうち、自社にいちばん足りない備えはどれか。
まとめ
経営者自身の「引退後・廃業後のお金」は、走っている間ほど後回しになりがちです。小規模企業共済は、税の後押しを受けながら自分の退職金を積む選択肢の一つ。ただし長く続ける前提であり、万能ではありません。まずは「やめたとき、いくら要るか」を書き出すところから始めてみてください。
参考資料
- 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済」制度の概要・掛金(加入者数・掛金・受取方法)
- 国税庁 タックスアンサー No.1135「小規模企業共済等掛金控除」
- 中小企業庁「小規模企業共済制度について」
- 東京商工リサーチ「2025年『休廃業・解散』動向調査」
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。制度の要件や税の取り扱いは改正される場合があります。加入資格や受取額の詳細は、中小企業基盤整備機構や顧問税理士にご確認ください。
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