商品やサービスを先に渡し、代金は後で受け取る。多くの会社が、この「掛け取引」で回っています。でも、代金をもらう前に取引先が倒れたら、その売掛金(未回収の代金)はどうなるのでしょうか。この記事では、そのリスクに「保険」で備える取引信用保険という選択肢を、やさしく整理します。

倒産は12年ぶりに1万件超え

帝国データバンクによると、2025年の全国の企業倒産は1万261件でした。前の年より3.6%多く、1万件を超えたのは2013年以来、12年ぶりです。物価高を理由とする「物価高倒産」は949件で、過去最多を更新しました。(この集計は、負債1,000万円以上で法的な整理を申請した企業などが対象です。)

取引先が倒れて困るのは、その会社だけではありません。代金を受け取れなくなった側も、資金繰り(お金のやりくり)が一気に苦しくなります。とくに離島の事業者では、取引先が本島や本土の少数の企業に集中しているケースもあります。遠くの相手の様子は見えにくく、「気づいたら回収できなくなっていた」ということも起こり得ます。

売掛金の焦げつきに「保険」で備える

取引信用保険とは、取引先の倒産などで売掛金が回収できなくなったとき、その損害に保険金が支払われる保険です。リスクへの備え方には、大きく「①移転(保険で他者に肩代わりしてもらう)」と「②保有(自社の資金でしのぐ)」があります。取引信用保険は、この①移転にあたります。

補償の対象となる事故や範囲は、商品や約款(保険の細かい取り決め)によって異なります。破産や民事再生などの法的な倒産に加え、一定の要件を満たした支払不能まで対象にする商品もあります。ただし、単なる支払いの遅れが、そのまま保険金の対象になるとは限りません。また、対象は継続的な取引先をまとめて補償する商品が中心で、不安な1社だけを自由に選べるとは限りません。加入時には、どの取引先や代金債権が対象になるかを確かめる必要があります。

保険料は、対象となる売上高や取引先の数、信用状態、支払限度額、補償割合などをもとに決まり、商品によって計算のしかたも違います。一定の審査もあるため、まずは個別に見積もりを取って確かめるとよいでしょう。なお、支払われる保険金は、あらかじめ定めた補償割合に応じた額です。損害の全額がそのまま戻るとは限りません。

似た備えに「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」があります。掛金を積み立てておき、取引先が倒れたときに無担保・無保証人でお金を「借りられる」制度です。借りたお金は返済が必要で、借入額の10分の1にあたる掛金は戻りません。当面の資金繰りを支える仕組みで、契約で定めた範囲内で損害の一定割合を保険金でカバーする取引信用保険(移転)とは役割が違います。どちらか一方を選ぶものではなく、組み合わせて使うこともできます。

なお、保険や共済で備える前に、取引先の信用を確かめる、与信の上限を決めるといった「③軽減」も大切です。これは保険とは別の、リスクコントロール(リスクそのものを小さくする工夫)の領域です。実務では、①移転・②保有・③軽減の3つを組み合わせて使います。

自社で書き出してみましょう

  1. 売掛金がいちばん大きい取引先はどこですか。その1社が倒れたら、自社の資金繰りは何か月もちますか。
  2. その取引先の今の状態を、自社はどこまで把握できていますか。最後に確認したのはいつですか。
  3. 回収できなくなったときの備えは、「自社の手元資金」「共済」「保険」のどれで、どこまでカバーできていますか。

まとめ

倒産が増えている今、代金を回収する前に取引先が倒れるリスクは、掛け取引を行う会社にはつきものです。取引信用保険は、回収できなかった損害の一部を、契約で定めた範囲内で保険に移す「移転」の一手です。まずは、いちばん大きな取引先が倒れたら自社はどうなるか、を紙に書き出すところから始めてみてください。答えは一つではありません。自社の状況に合う組み合わせを、専門家と一緒に考えていきましょう。

参考資料

  • 帝国データバンク「全国企業倒産集計 2025年報」
  • 全国中小企業団体中央会「取引信用保険制度について」
  • 東京海上日動火災保険「取引信用保険」商品概要
  • 中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

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