自動車保険の「参考純率」、沖縄県以外の平均で過去最大の+14.4% ― 社用車を持つ中小企業が確かめたいこと
「自動車保険の保険料が、また上がるらしい」——そんなニュースを目にした社長も多いのではないでしょうか。2026年6月23日、損害保険料率算出機構(損保料率機構)が、自動車保険の「参考純率」を平均で+14.4%引き上げる届出を金融庁に行いました。報道によれば、この幅は同機構が現在の形になった2002年以降で過去最大とされています。
ただし、最初に大切な但し書きがあります。この+14.4%は、「使用地域が沖縄県以外」のセット契約について、用途・車種・補償内容などをすべて平均した数値です。沖縄県内の契約や、個々の社用車の契約にそのまま当てはまる改定率ではありません。石垣島をはじめ沖縄で読んでくださっている方は、まずこの前提を押さえておくと、ニュースの数字に振り回されずに済みます。
この記事では、①「参考純率」という耳慣れない言葉が何を意味するのか、②なぜ今これほど大きな引き上げなのか、③社用車を持つ中小企業がリスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の視点で何を確かめておくとよいのか、を専門用語をかみ砕いて整理します。不安を煽るためではなく、値上げの数字を落ち着いて読むための「足場」をお渡しするのが目的です。
そもそも「参考純率」とは? 値上げの数字の読み方
まず押さえておきたいのが、「参考純率=あなたの保険料の値上げ率」ではないということです。ここを誤解すると、数字を必要以上に大きく受け止めてしまいます。
私たちが払う自動車保険の保険料は、大きく二つの部分でできています。ひとつは、事故が起きたときの保険金の支払いに充てる「純保険料」。もうひとつは、保険会社の経営や代理店手数料などに充てる「付加保険料」です。損保料率機構が算出・提供している参考純率は、このうち「純保険料」部分の目安となる数値にすぎません。
しかも、参考純率はあくまで各社が保険料を決めるときの「参考値」です。実際にいくらの保険料にするかは、各損害保険会社が自社の商品設計や経費構造に応じて独自に決めます。損保料率機構自身も「参考純率の改定内容は、実際に契約される保険会社の保険商品の改定内容とは異なる」と明記しています。つまり、参考純率が+14.4%だからといって、あなたの保険料がそのまま14.4%上がるわけではありません。上がる会社もあれば、上げ幅がこれより小さい・大きい会社もあります。今回の改定は2027年1月以降に保険を開始する契約を想定したものですが、この改定を採用するか、いつ・どの程度実際の商品に反映するかは、各保険会社が個別に判断します。参考までに、前回は2024年6月に参考純率を平均+5.7%引き上げる改定が行われています。
ひとことメモ:「参考純率+14.4%」は、業界全体で見た保険金支払いの目安が上がった、というサインです。個々の契約者の保険料改定率とは別物、と覚えておくと数字に振り回されずに済みます。
なぜ今、過去最大の引き上げなのか ― 事故件数よりも修理費の上昇が重い
意外に思われるかもしれませんが、今回の引き上げの主因は「交通事故が急増したから」ではありません。損保料率機構によれば、事故率はコロナ禍後の交通量回復でいったん増えたものの、足元では落ち着き、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)など先進的な安全技術の普及を背景に緩やかに減少しています。それでも参考純率が大きく引き上げられたのは、対物賠償責任保険や車両保険で、1件あたりに支払う保険金(保険金単価)が、事故率の低下を上回るペースで増えているためです。
背景には、自動車の高機能化があります。自動ブレーキやセンサー、カメラといった先進的な部品が増え、ぶつけたときの部品代そのものが高くなっています。加えて、物価高で部品価格や整備工賃の単価も上がり、修理期間が延びることで代車費用などの間接的な損害も増えています。損保料率機構の分析では、こうした保険金単価の上昇には、物価上昇や高性能部品の普及、工賃単価の上昇、修理期間の長期化に伴う代車料などの間接損害といった複数の要因が重なっているとされています。対物賠償責任保険(相手の車やモノへの賠償)と車両保険(自分の車の修理)を中心に、1件あたりの支払いがじわじわと膨らんでいるのが実情です。
参考純率の引き上げは今回が突然というわけではなく、前回は2024年6月の届出で平均+5.7%でした。ここで注意したいのは、これらの改定率を単純に足し算しないことです。「+5.7%と+14.4%で合計約20%の値上げ」という読み方は正しくありません。改定は基準となる数値の見直しであり、時期・補償内容・車種によって効き方が異なるためです。数字を並べて驚くより、「修理費という土台のコストが上がり続けている」という傾向を押さえるほうが、備えを考えるうえで役立ちます。
リスクファイナンスの視点 ― 自動車リスクは「移転」の代表例
リスクファイナンスは、リスクにお金の面でどう備えるかの考え方で、中心は①移転(保険などで他者に肩代わりしてもらう)と②保有(自社の手元資金などで受け止める)の二つです。よく「③軽減」も並べて語られますが、事故を減らす取り組みそのものは厳密にはリスクコントロールの領域で、財務の話とは区別されます。実務では、この三つを切り離さず組み合わせて考えるのが現実的です。
社用車の事故は、対人・対物の賠償が高額になりやすく、一度の事故で会社の資金繰りを揺るがしかねません。だからこそ、賠償部分は保険で「移転」しておくのが基本になります。特に対人賠償・対物賠償は、事故によっては賠償額が極めて高額になる可能性があるため、賠償額は原則として無制限を基本に検討しておくことの重要性は、修理費・賠償額が上がっている今、むしろ増しています。値上げに反応して補償を薄くすると、いざというときに保険が「移転」の役目を果たせなくなる——ここは慎重に考えたいところです。
一方で、保険料が上がる局面では、すべてを保険に頼るのではなく「保有」との配分を見直す発想も出てきます。たとえば車両保険の免責金額(自己負担額)を引き上げれば、その分の小さな損害は自社で受け止める代わりに保険料を抑えられます。ただし、これは会社の手元資金の厚さや、車両の使い方・台数によって向き不向きが変わります。「一律にこうすべき」という正解はなく、自社の状況に応じて配分を決める話だと理解しておくのが大切です。
社用車が10台以上なら「フリート契約者料率制度」が適用される
社用車が多い会社に関わるのが「フリート契約者料率制度」です。これは自由に選ぶ契約方式ではなく、台数によって自動的に決まる区分だという点にまず注意が必要です。日本損害保険協会の解説によれば、契約者が所有・使用する自動車の総契約台数が10台以上になるとフリート契約者、9台以下はノンフリート契約者となります。この台数は保険会社ごとではなく契約者単位で数えるため、複数の保険会社に分けて契約している車も合計して判定します(会社役員や従業員が個人で所有する車などは、通常この台数に含まれません)。
両者の大きな違いは、保険料の決まり方です。私たちに馴染みのあるノンフリート契約は「1台ごと」に等級(割引・割増)が決まります。これに対してフリート契約は、会社全体(契約者単位)の損害率(払った保険料に対して受け取った保険金の割合)で翌年以降の保険料が決まります。つまり、全社で安全運転や事故防止に取り組み、保険金の支払いを抑えられれば、その成果が会社全体の割引として反映されやすい仕組みです。ここは、先ほどの「軽減(リスクコントロール)」の努力が「移転(保険料)」の負担軽減につながる、分かりやすい接点だといえます。
なお、今回の届出には、参考純率の引き上げとあわせて、ドライブレコーダー等で測った運転の特性(急加速・急減速の頻度など)を保険料に反映する新しい料率区分を新設する内容も盛り込まれています。一定期間の急加速・急減速が少ない契約ほど低い料率区分になる設計で(1回の急操作だけで決まるものではありません)、区分間の較差は参考純率上10%とされています。これも「軽減(安全運転)」が「移転(保険料)」の負担軽減につながる流れの一つですが、この区分を実際の商品に採用するかどうかは、各保険会社が判断します。
管理面でも、「全車両一括特約」などを付けることで、全車の満期日を揃えたり、車両の入れ替え手続きを簡素にしたりできます(すべてのフリート契約が自動的に一つの証券・共通満期になるわけではありません)。ただし、良い面ばかりではありません。フリートは損害率で保険料が決まるため、1台の大きな事故でも会社全体の損害率が悪化し、翌年以降のすべての車の保険料に影響する可能性があります。割引がどの程度になるかは、台数・車種・過去の事故状況・保険会社の商品によって変わります。「フリートにすれば必ず安くなる」と決めつけず、自社のケースは個別に確認するのが現実的です。
離島・沖縄の視点:公共交通の選択肢が限られる沖縄の離島では、営業も配送も社用車が頼り、という会社が少なくありません。車両への依存度が高いぶん、事故が止めるのは「移動」だけでなく「売上」でもあります。値上げを機に、補償と手元資金のバランスを一度点検しておく価値はあります。
自社で書き出してみる ― 値上げの前に確かめたい設問
- 自社の社用車は何台あり、それぞれの対人・対物賠償の金額はいくらに設定しているか(無制限になっているか)。
- 車両保険は付けているか。免責金額(自己負担額)はいくらで、その水準は自社の手元資金から見て妥当か。
- 自社が所有・使用する自動車の総契約台数は何台か。他社で契約している車も含めて数え、フリート・ノンフリートの区分が正しく判定されているか。
- 過去3年の社用車の事故・保険金支払いの実績はどうか。ドライブレコーダーや安全運転の仕組みで「軽減」できる余地はないか。
- 次の更新時期はいつか。値上げの案内が来たとき、補償を薄くする以外に、免責の調整や契約形態の見直しで対応できないか。
まとめ ― 数字に驚くより、傾向を読んで備える
2026年6月の参考純率の平均+14.4%という数字は、報道では過去最大の引き上げとされるものの、あくまで「沖縄県以外」のセット契約の平均であり、そのまま各契約者の保険料改定率になるわけではありません。背景にあるのは、足元の事故率の動き以上に、修理費や工賃、代車費用などを含む1件あたりの支払保険金が上がり続けているという構造です。この傾向は、社用車を持つ会社にとって、賠償リスクを保険で「移転」しておく重要性が増していることを意味します。
値上げの案内が来たときに反射的に補償を削るのではなく、対人・対物賠償はしっかり確保しつつ、車両保険の免責による「保有」との配分や、フリート契約者料率制度といった契約形態の見直しで無理なく調整する——そんな順番で考えると、コストと安心のバランスが取りやすくなります。答えは会社ごとに違います。この記事が、自社にとっての最適解を自分の頭で考えるきっかけになれば幸いです。
参考資料
- 損害保険料率算出機構「自動車保険参考純率」および「自動車保険参考純率 届出のご案内」(2026年6月23日金融庁長官への届出)https://www.giroj.or.jp/ratemaking/automobile/
- 時事通信「自動車保険料、平均14.4%引き上げ 物価高で過去最大 損保料率機構」(2026年6月)https://news.yahoo.co.jp/articles/b2e6e15477d645cd53e647f132c5f962a2150e4c
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ:フリート契約とは?」https://www.sonpo.or.jp/sme_insurance/explanation/article06/
- せいび界WEB「自動車保険の参考純率が平均14.4%引上げ|保険料への影響を解説」(2026年6月・損保料率機構の届出資料をもとにした解説。契約例別の改定率〈沖縄県以外〉、事故率と保険金単価、運行特性区分の新設など)https://www.seibikai.co.jp/archives/news/company-info/12232
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。
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