インボイス制度が始まってから、負担をやわらげる「2割特例」に助けられてきた小規模事業者は少なくありません。その2割特例が、2026年(令和8年)を区切りに終わっていきます。あわせて令和8年度税制改正で、一定の要件を満たす個人事業者が選択できる「3割特例」が新しくつくられました。この記事では、何が・いつ・どう変わるのかを国税庁の公表資料にもとづいて整理し、そのうえで「納める消費税が増える場合には、手元に確保すべきお金(納税資金)も増える」という、リスクファイナンスの視点での備え方を、噛み砕いてお伝えします。結論を急がず、自社にとっての論点をご自身で考える材料をお渡しできればと思います。

まず、なぜ「税金の話」がリスクファイナンスなのか

リスクへの財務的な備え(リスクファイナンス)は、大きく「①移転」と「②保有」の二つが中心です。移転は保険などでリスクの影響を外部に引き受けてもらう考え方、保有は自社で手元資金を積んで自前で耐える考え方です。なお、業務フローを見直して損失そのものを小さくするといった対策は、厳密にはリスクコントロール(リスク軽減)の領域にあたります。実務では、この移転・保有・軽減の三つを組み合わせて考えるのが基本です。

消費税の納税は、保険で移せるものではありません。だからこそ本質的には「保有」、つまり手元資金であらかじめ備えておく話になります。制度が変わって納める税額が増えるということは、その分だけ手元に確保しておくべき現金が増えるということ。売上として一度は入ってきたお金を、後から国に納めるために取り分けておく――消費税は、この「預かって、後で納める」性格が強い税金です。制度改正を早めに知り、資金繰りに織り込んでおくこと自体が、立派なリスクファイナンスの一部だといえます。

「2割特例」とは何だったか ― そして、いつ終わるのか

2割特例は、免税事業者だった人がインボイス発行事業者(課税事業者)になったことで生じる負担をやわらげるための経過措置です。仕入れの記録をこまかく集計しなくても、納める消費税を「売上にかかる消費税額の2割」で計算できる、というものでした。売上税額の8割を差し引いて納められるため、事務も負担も軽く済みます。

この2割特例の対象は、「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日が属する各課税期間」です。個人事業者は、原則として課税期間が暦年(1〜12月)です。そのため、課税期間を短縮していない一般的な個人事業者では、令和8年(2026年)分、つまり2027年春に行う確定申告までが2割特例の対象となり、令和9年(2027年)分の申告からは使えなくなります。ここが最初の区切りです。

令和8年度改正で新設された「3割特例」の中身

2割特例の終了後をにらんで、令和8年度税制改正で新しくつくられたのが「3割特例」です。国税庁の資料によると、その内容は、免税事業者から課税事業者になった個人事業者について、令和9年分・令和10年分(2027年分・2028年分)の消費税の確定申告で、納付税額を売上税額の3割にできる、というものです。売上税額の7割を差し引いて納められる計算になります。主な適用要件は、次のとおりです。

  • 個人事業者であること(法人は3割特例の対象外です)。
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前。令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)の課税売上高が1,000万円以下であること。
  • インボイス発行事業者の登録を受けていること。

ただし、これらの要件を満たす個人事業者でも、特定期間の課税売上高などによって本来課税事業者となる年、一定の高額な資産を取得して事業者免税点制度の適用が制限される期間、課税期間を1か月または3か月に短縮している期間などは、3割特例を利用できません。3割特例は「個人事業者に自動的に適用される制度」ではなく、要件を満たす人が申告のときに選べる制度である点に注意してください。自社が対象になるかどうかは、国税庁が公表する適用可否のフローチャートや最新のQ&Aで確認するのが確実です。

ここで注意したいのが、法人には3割特例がない点です。3月決算法人などは、2割特例が終わる課税期間の翌期からは、原則どおり一般課税か簡易課税での申告になります。個人事業者と法人とで「使える経過措置」が異なるため、自社がどちらの立場かをまず確認しておく必要があります。

納める消費税は、どのくらい増えるのか

数字で見ると分かりやすくなります。2割特例では「売上税額の20%」、3割特例では「売上税額の30%」を納めます。単純に比べると、納付額は売上税額の20%から30%へ、1.5倍になる計算です。

たとえば、あくまで単純化した例として、年間の課税売上が税抜1,000万円、これにかかる消費税額(売上税額)が100万円だったとします。2割特例なら納付は20万円、3割特例なら30万円。差額はおよそ10万円です。さらにその先、令和11年分(2029年分)からは、一般課税または(要件を満たして届出をすれば)簡易課税での計算になり、業種や仕入れの状況によっては納付額がもう一段増える可能性もあります。※実際の税額は売上・仕入れの構成や税率区分などにより変わります。

大切なのは、金額の大小そのものよりも、経過措置が段階的に縮んでいくなかで「納める消費税が増える局面がありうる」ことを、いまのうちから資金繰りに織り込んでおくことです。実際の税額は売上や仕入れの状況、どの計算方法を選ぶかによっても変わりますが、1年後・2年後に必要な納税資金の見通しが立っていれば、納付の直前に急な資金調達が必要となる可能性を下げられます。逆に、2割特例の軽さに合わせた資金感覚のままでいると、いざ納付の時期に手元が足りない、ということになりかねません。

選択肢は「3割特例」だけではない ― 簡易課税という道

経過措置に頼り続けるのではなく、早めに「簡易課税制度」へ移る選択肢もあります。簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が使える制度で、売上税額に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けた金額を、仕入れにかかった消費税とみなして差し引ける仕組みです。みなし仕入率は、卸売業90%、小売業80%、製造業・建設業など70%、飲食店業など第4種60%、サービス業など50%、不動産業40%と、業種で決まっています。消費税の仕入税額控除を計算するために、実際の課税仕入れを一件ずつ集計する必要がないため、消費税申告の事務負担を抑えられるのが特徴です(所得税・法人税の計算や帳簿保存のための記録は、これとは別に必要です)。

どの方法が有利かは、業種や仕入れの状況によって変わります。国税庁も「業種や仕入れの状況によっては簡易課税制度の方が有利な場合がある」としており、3割特例が常に得とは限りません。たとえば、みなし仕入率の高い業種では簡易課税のほうが納税額を抑えられることもあります。一方、簡易課税は選択すると原則2年間は続けなければならないなどの縛りもあるため、目先の税額だけでなく、その後の見通しも含めて考える必要があります。

この移行をしやすくするため、令和8年度改正では、2割特例後に設けられていた簡易課税への移行措置が見直され、3割特例後の移行にも対応する形で拡充されました。通常、簡易課税を使うには、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに届出書を出す必要があります。ただし、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間から簡易課税を使う場合、その翌課税期間が2026年10月1日以後に終了するものであれば、その課税期間の申告期限までに届出書を出すことで、その期間から簡易課税を適用できます。なお、2割特例の翌課税期間が2026年9月30日以前に終了する場合(一定の9月決算法人など)は、申告期限ではなく、その課税期間の末日までに提出する必要があります。申告期限まで提出できるケースでは、課税期間の終了後に実績を見てから簡易課税を選ぶ余地がありますが、終了前に提出が必要となるケースもあるため、自社の課税期間に応じた期限を確認しておくと安心です。

「一般課税の買い手」にも変化がある ― 免税事業者等からの仕入れは7・5・3割控除へ

ここまでは、自分がインボイスを発行する側の話でした。もう一つ押さえておきたいのが、免税事業者や登録を受けていない課税事業者など「インボイス発行事業者以外の者」から仕入れた場合の経過措置です。インボイスのない仕入れでも一定割合を控除できるこの措置は、当初「令和8年10月から3年間50%、その後0%」の予定でしたが、令和8年度改正で適用期限を2年延長したうえで、控除できる割合が見直されました。なお、この割合の変更が納付税額に直接ひびくのは、実際の課税仕入れをもとに控除を計算する一般課税の事業者が中心です。簡易課税や2割特例・3割特例では実額の仕入税額控除を行わないため、その制度を使っている期間の納付税額には直接は反映されません。

具体的には、令和8年10月から2年間は70%、令和10年10月から2年間は50%、令和12年10月から1年間は30%、そして令和13年10月以降は0%(控除不可)と、段階が細かくなりました。控除できる割合の下がり方がゆるやかになった、と理解できます。ただし、同一のインボイス発行事業者以外の取引先からの課税仕入れの合計(税込)が、その年・事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合には、超えた部分にはこの控除が使えません(令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用)。免税事業者との取引が多い会社は、取引先との価格や取引条件の話し合いを、このスケジュールを見ながら進めることになります。

自社で書き出してみる ― 考えるための設問

制度の全体像をつかんだら、次は自社の数字に当てはめてみることをおすすめします。次の問いに、紙に書き出して答えてみてください。

  1. 自社は個人事業者ですか、法人ですか。2割特例が終わる次の申告から、3割特例・簡易課税・一般課税のうち、どれが使える立場ですか。
  2. いまの2割特例で納めている消費税は年いくらですか。それが3割特例、さらにその先の通常計算になると、どのくらい増えそうですか。
  3. 増える分の納税資金を、毎月いくらずつ取り分けておけば、納付の時期に手元が足りなくなりませんか。
  4. 自社の業種のみなし仕入率は何%ですか。3割特例と簡易課税では、どちらが自社の実態に近く、有利になりそうですか。
  5. 仕入先や外注先に免税事業者はいますか。7・5・3割控除の割合が下がっていくスケジュールは、自社の消費税納付額や実質的な負担にどう影響しますか。

まとめ ― 「税額の増加」を、資金繰りの予定表に書き込む

2割特例の終了後、要件を満たす個人事業者は、2027年分・2028年分について3割特例を選択できます。その後は、一般課税または要件を満たして届出をした場合の簡易課税での申告になります。また、一般課税の事業者が「インボイス発行事業者以外の者」から仕入れた場合の控除割合も、段階的に縮んでいきます。いずれも「ある日突然」ではなく、あらかじめ年度が決まっている変化です。だからこそ、リスクファイナンスの発想では、これを「予測できる資金流出」ととらえ、納税資金の予定表に前もって書き込んでおくことが備えになります。とりわけ石垣島や沖縄の離島では、観光・飲食・農漁業やフリーランスなど、インボイスを機に免税から課税事業者になった小規模な担い手が数多くいます。数字が小さいうちに全体像をつかみ、自社に合った計算方法を選び、増える納税分を手元に取り分けておく。この地道な準備が、島で事業を続けていく足場になります。

参考資料

  • 国税庁「令和8年度 税制改正特集(3割特例/簡易課税への円滑な移行措置/7・5・3割控除 ほか)」
  • 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
  • 国税庁 タックスアンサー No.6505「簡易課税制度」
  • 国税庁「インボイス制度に関するQ&A(3割特例/免税事業者等からの仕入れに係る経過措置)」

※本記事の制度内容・数値は、国税庁が公表する令和8年度税制改正の資料等にもとづきます。適用要件・期限・届出の取扱いは、個々の事業者の課税期間や状況、今後の運用・改正によって変わる場合があります。特例のうち有利・不利は業種や仕入れの構成によって異なり、簡易課税には原則2年間の継続適用などの制約もあります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の一次情報をご確認ください。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

インボイスの経過措置の終了に向けて、納税資金の見通しや計算方法の選び方を整理したい方は、一般社団法人リスクファイナンス研究所の初回相談をご利用ください。自社の数字を一緒に見える化するところから、お手伝いします。