自社の経営がうまくいっていても、大切な取引先が突然倒産すれば、売掛金が回収できず、自社まで資金繰りに行き詰まる――これを「連鎖倒産」と呼びます。2025年の企業倒産は12年ぶりに1万件を超えました。この記事では、取引先の倒産という「自分ではコントロールしにくいリスク」に、中小企業がどう財務的に備えられるのかを、公的な制度「経営セーフティ共済」とその2024年の改正を軸に整理します。制度を使うかどうかの結論を急ぐのではなく、自社にとって何が論点になるのかを、ご自身で考える材料をお渡しできればと思います。

取引先の倒産は「他人事」ではなくなっている

まず、いまの倒産の状況を数字で確認します。帝国データバンクの集計によれば、2025年(1〜12月)の全国企業倒産は10,261件に達し、2013年以来12年ぶりに1万件を超えました。一方で負債総額は1兆5,668億8,800万円と2年連続で前年を下回っており、件数は増えても一件あたりの規模は小さくなる、いわば「小規模倒産が数多く起きる」局面が続いています。

東京商工リサーチの集計では、直近の2026年上半期(1〜6月)の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は5,346件となり、5年連続で前年同期を上回りました。上半期として5,000件を超えたのは、2014年以来12年ぶりです。負債1億円未満の倒産は4,120件で全体の77.0%を占め、小・零細規模を中心とする状況が続いています。件数の数え方や集計基準は調査機関ごとに異なるため数字には幅がありますが、「倒産件数が増え、小規模な倒産が多数を占めている」という傾向は共通して確認できます。

ここで意識したいのは、倒産件数が高い水準にある今は、自社の取引先倒産リスクをあらためて点検すべき局面だ、という点です。とりわけ石垣島や沖縄の離島では、業種によっては選べる取引先や販売先が限られ、特定の卸先・元請・観光関連事業者への依存度が高くなることがあります。取引先の内情が見えにくい島外企業との取引も少なくありません。取引先が一社倒れただけで、多額の売掛金が回収できなくなり、将来の売上も大きく失われる――そんな構造を抱えている会社ほど、この話は「他人事」では済みません。

連鎖倒産はなぜ起きるのか ― 「黒字なのに倒れる」仕組み

連鎖倒産の怖さは、自社の商売そのものが順調でも起こりうる点にあります。多くの取引は「先に商品やサービスを納め、代金は後で受け取る」掛け取引です。納品済みの代金(売掛金)を受け取る前に取引先が倒産すると、その債権は回収が極めて難しくなります。売掛金に対応する売上は帳簿上すでに計上されていても、その代金である現金が入ってこないわけです。

利益(帳簿上の黒字)と現金(手元のお金)は別物です。仕入代金や人件費の支払いは待ってくれませんから、入るはずのお金が入らなければ、黒字でも支払いが回らなくなる。これが「黒字倒産」や連鎖倒産の基本的な仕組みです。だからこそ、取引先の倒産という信用リスクに対しては、「利益を出しておく」だけでなく、「現金が途切れないようにしておく」備えが必要になります。

リスクファイナンスで見ると、備え方は主に二つ

リスクへの財務的な備え(リスクファイナンス)は、大きく「①移転」と「②保有」の二つが中心です。移転は、保険や共済などを使ってリスクの影響を外部に引き受けてもらう考え方。保有は、自社で手元資金を積んでおき、いざというときに自前で耐える考え方です。なお、取引先の与信管理を強化して倒れそうな相手との取引を抑える、といった「リスクそのものを小さくする」対策は、厳密にはリスクコントロール(リスク軽減)の領域にあたります。実務では、この移転・保有・軽減の三つを組み合わせて考えるのが基本です。

取引先の倒産に当てはめると、移転の代表例は、一定の回収不能損失を保険金で補償する「取引信用保険」です。保有の代表例は、自社で確保している手元資金や、緊急時に使える自己資金です。そして、保有した損失に対して「いざというときの資金繰りを貸付けで支える公的な仕組み」として知られているのが、次に紹介する「経営セーフティ共済」です。取引信用保険が損失そのものを保険金で補償するのに対し、経営セーフティ共済の共済金は保険金ではなく返済を要する貸付金であり、回収不能による損失そのものが外部に移転するわけではない点が、両者の大きな違いです。

経営セーフティ共済という選択肢 ― 制度の中身

経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済制度)は、国が全額出資する独立行政法人・中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する共済です。取引先が倒産して売掛金などの回収が困難になったとき、連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐことを目的としています。主な特徴を整理すると、次のとおりです。

  • 掛金は月額5,000円から200,000円まで、5,000円単位で設定でき、掛金総額が800万円に達すると積立が止まります。
  • 共済契約者の直接の取引先事業者が制度上の倒産事由(法的整理、取引停止処分、私的整理、災害による不渡りなど)に該当して倒産し、売掛金債権や前渡金返還請求権の回収が困難になったとき、無担保・無保証人で、掛金総額の最大10倍(上限8,000万円)まで共済金の貸付けを受けられます。実際の貸付額は、「回収困難となった対象債権等の額」と「算定の基礎となる掛金総額の10倍」のいずれか少ない額です。
  • 貸付けを受けるには、取引先の制度上の倒産が加入後6か月以上経過してから発生していること、倒産までに6か月分以上の掛金を納付していること、倒産日から6か月以内に借入手続きを行うことなどが必要です。取引先の「夜逃げ」は制度上の倒産事由に含まれず対象外で、貸付金や不動産賃貸借に基づく債権なども対象になりません。
  • 支払った掛金は、一定の要件・手続きのもと、法人では損金に、個人事業主では事業所得の必要経費に算入できます。個人の場合、不動産所得など事業所得以外の所得の必要経費には算入できません。
  • 掛金は解約時に「解約手当金」として戻る仕組みです。自己都合による任意解約の場合、掛金の納付月数が40か月以上であれば支給率は掛金総額の100%です。任意解約では、納付月数が12か月未満だと解約手当金はなく(いわゆる掛け捨て)、12〜39か月では掛金総額を下回ります。なお、掛金の滞納などによる機構解約では40か月以上でも支給率は95%で、共済金の貸付けで権利が消滅した掛金がある場合は、実際の受取額が払込額を下回ります。

注意しておきたいのは、共済金の貸付けは無利子ですが、貸付元本は所定の期間内に返済する必要があり、取引の事実や被害額などの審査も行われる点です。請求すれば直ちに、また必ず借りられるわけではありません。さらに、貸付けを受けると貸付額の10分の1に相当する掛金の権利が消滅し、この部分は貸付金を完済しても戻りません。つまり「借りたお金の1割は、自分の積立から実質的に負担する」形です。無担保・無保証人で資金調達を図れる一方、審査や手続きがあり、まったくの無償でも即時の資金化を保証する制度でもない――この性格を理解しておくことが大切です。制度の考え方としては、いざというときの資金調達手段を、日頃の積立で自ら育てておくイメージに近いといえます。

税務面でもう一点、見落としやすいのが「出口」です。掛金を損金・必要経費に算入できる一方で、解約時に受け取る解約手当金は、法人では益金、個人では事業所得の収入金額に算入されます。つまり掛金の経費算入は永久的な非課税ではなく、課税の時期を将来へずらす(課税の繰延べ)という側面が強い制度です。解約する年度の利益や資金の使い道によって実際の効果は変わるため、「積むとき」だけでなく「戻すとき」まで見て考える必要があります。

2024年10月の改正で何が変わったか

この制度は、2024年3月に公布された税制改正(租税特別措置法第28条・第66条の11の改正)により、掛金の損金・必要経費算入に関するルールが見直されました。具体的には、2024年10月1日以降に共済契約を解約し、その後あらためて再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までの間に支払う掛金は、損金・必要経費に算入できなくなりました。法人・個人ともに同じ取扱いです。

改正の背景として国が挙げているのは、本来の目的(連鎖倒産の防止)とは異なる使われ方が目立ってきたことです。解約手当金の返戻率が高くなる加入後3〜4年目での解約が多く、中小企業庁の資料では、2020〜2022年度の再加入者のうち71.2%が解約後1年未満で入り直していた、といった実態が指摘されています。掛金を経費にして解約し、また入り直して経費にする――そうした「節税目的での出入り」に一定の歯止めをかけた改正だと理解できます。

経営セーフティ共済は「節税商品」として語られることも多い制度ですが、本来の目的はあくまで取引先倒産への備えです。2024年の改正は、その原点を制度の側から確認し直したもの、と受け止めておくとよいでしょう。

自社で書き出してみる ― 考えるための設問

制度を使うかどうかを決める前に、まずは自社の「取引先倒産リスク」の輪郭を、紙に書き出してみることをおすすめします。次の問いに答えてみてください。

  1. 売上の何割を、上位いくつの取引先が占めていますか。もっとも大きい取引先が倒れたら、いくらの売掛金が回収できなくなりますか。
  2. その金額が入ってこなかった場合、自社の手元資金だけで、何か月分の支払い(仕入・人件費・家賃など)をしのげますか。
  3. 取引先の倒産に対する現在の備えは、「移転(取引信用保険)」「資金調達手段の確保(経営セーフティ共済や融資枠)」「保有(手元資金)」「軽減(与信管理)」のどこに、どの程度偏っていますか。
  4. 経営セーフティ共済に関心がある場合、掛金は毎月いくらまでなら無理なく続けられ、任意解約時の支給率が100%となる40か月まで継続できそうですか。

まとめ ― 「倒れる確率」ではなく「倒れたときの耐え方」を

取引先が倒産するかどうかは、自社ではコントロールしきれません。だからこそ、リスクファイナンスの発想では、「相手が倒れる確率」を当てにいくのではなく、「万一倒れたとき、自社の現金がどれだけ持ちこたえられるか」を先に設計します。経営セーフティ共済は、その耐える力を日頃の積立で育てておくための公的な選択肢のひとつです。ただし節税だけを目的にすると、2024年改正のように制度の前提が変わったときに思わぬ痛手を負いかねません。取引先の数が限られやすい離島の事業者ほど、一社への依存度と手元資金のバランスを、一度きちんと見える化しておく価値があります。

参考資料

  • 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済 制度の概要/掛金/共済金の借入れ/制度のしおり/税制の特例に関する内容の変更について」
  • 中小企業庁「中小企業倒産防止共済制度について(FAQ)」
  • 株式会社帝国データバンク「倒産集計 2025年報(1月〜12月)」
  • 株式会社東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産」
  • 財務省「所得税法等の一部を改正する法律(2024年3月公布)」/租税特別措置法第28条・第66条の11

※本記事の統計は各調査機関・公的機関の公表値に基づきます。倒産件数は調査機関により集計基準・数値が異なります。共済の掛金・貸付・税制の取扱いは、要件や手続き、今後の制度改正によって変わる場合があります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の一次情報をご確認ください。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

取引先の倒産リスクや手元資金の備え方について整理したい方は、一般社団法人リスクファイナンス研究所の初回相談をご利用ください。自社の状況を一緒に見える化するところから、お手伝いします。