「会社を子どもに継がせたいが、自社の株にかかる税金が心配だ」——中小企業の社長から、よく聞く悩みです。非上場の会社でも、長年かけて利益を積み上げてきた会社ほど、株式(自社株)の評価額は高くなりがちです。その株式を後継者へ渡すときには、贈与税や相続税がかかります。この負担を大きく軽くするしくみが「事業承継税制」です。この記事では、いま知っておきたい2027年という期限、特例措置の中身、そして見落とされやすい「猶予は免除ではない」という財務の落とし穴までを、専門用語を噛み砕いて整理します。

事業承継税制とは、ざっくり何か

事業承継税制には、非上場会社の株式等を対象とする「法人版」と、個人事業者の一定の事業用資産(土地・建物・機械など)を対象とする「個人版」があります。この記事では、主に法人版の特例措置を取り上げます。法人版は、後継者が贈与や相続などで一定の非上場株式(自社株)を取得したときにかかる贈与税・相続税の納税を、一定の要件のもとで「猶予(先送り)」する制度です。ここで大切なのは、猶予される税金がいったんゼロになるのではなく、要件を満たしているあいだ支払いを待ってもらっている状態だ、という点です。しかも、要件を守り続けただけで一定年数後に自動的に免除されるわけではありません。後継者が亡くなった場合や、一定の要件を満たす次の後継者へさらに贈与した場合など、法律で定められた「免除事由」に当てはまり、必要な手続きをしたときに、はじめて税額の全部または一部が免除されます(国税庁)。この性質は後半でくわしく触れます。

リスクファイナンスの視点で言うと、これは「税負担というリスクに、財務でどう備えるか」という話に近いテーマです。リスクファイナンスの中心は、①リスクを外部に移す「移転」(保険など)と、②自分で抱える「保有」(手元資金など)の二つです。よく挙げられる「軽減」は、厳密にはリスクそのものを小さくするリスクコントロールの領域に入りますが、実務ではこの三つを組み合わせて考えます。事業承継税制は税負担を軽くする制度でありながら、後述するように「保有」の備えも一緒に考えたいテーマです。

いま知っておきたい「期限」――2027年がふたつの節目

法人版の事業承継税制には、通常の「一般措置」と、10年間限定で大幅に条件を良くした「特例措置」があります。話題になりやすいのは特例措置のほうです。この特例措置には、いま二つの期限があります。

一つめは、「特例承継計画」の提出期限です。特例措置を使うには、後継者は誰か、いつ承継するか、承継後の経営の見通しなどを書いた計画をあらかじめ都道府県に提出しておく必要があります。この提出期限は、令和8年度税制改正により、これまでの令和8年(2026年)3月31日から令和9年(2027年)9月30日まで延長されました(中小企業庁)。

二つめは、実際に贈与・相続で株式を取得する期限です。より厳密には、令和9年(2027年)12月31日までに贈与が行われる、または相続が開始する必要があるということで、計画の提出期限が延びた後も変わっていません(中小企業庁)。つまり「計画を出す時間は少し増えたが、実際に承継を実行する期限は据え置き」という状態です。計画を出しただけでは完結せず、そのあと都道府県知事の認定を受け、贈与や相続の手続き・税務申告まで進める必要があります。逆算すると、準備に使える時間は思うほど長くありません。

個人事業主向けの「個人版」も同じく令和8年度税制改正で延長され、個人事業承継計画の提出期限は令和10年(2028年)9月30日、贈与・相続で事業用資産を取得する期限は令和10年(2028年)12月31日とされています(中小企業庁)。法人版とは期限が1年ずれる点に注意してください。

特例措置は何がうれしいのか

特例措置が「特例」と呼ばれるのは、一般措置よりも条件がかなり良いからです。中小企業庁の説明をもとに、主なポイントを噛み砕くと次のようになります。まず、対象となる株式数の上限が撤廃され、猶予される割合が100%に拡大されました。承継する株式にかかる贈与税・相続税の全額が納税猶予の対象になる、ということです。

次に、対象者が広がりました。以前は「先代経営者ひとりから後継者ひとりへ」の承継だけが対象でしたが、特例措置では親族以外を含むどの株主からでも、代表者である後継者(最大3人)への承継が対象になります。さらに、以前ネックになりがちだった雇用要件(承継後5年間の平均で、雇用の8割を維持する)も見直され、8割を下回った場合でも、その理由を報告すれば猶予を継続できるしくみになりました(経営悪化などが理由の場合は、認定支援機関の指導助言が必要です)。加えて、将来の経営環境の変化に備えるしくみもあります。ただしこれは無条件に使えるものではなく、原則として最初の5年間(特例経営承継期間)が過ぎたあとに、事業の継続が困難な一定の事由が生じて株式を譲渡したり会社を解散したりした場合などに、実際の売却価格や解散時の評価額などをもとに猶予税額を計算し直し、一定の差額を免除する、というものです。しかも売却価格には評価額の下限が設けられているなどの調整があり、任意の売却や廃業で単純に税負担が下がるわけではありません。

見落とされがちな「猶予は免除ではない」という財務リスク

ここが、リスクファイナンス研究所としていちばんお伝えしたい点です。特例措置はたしかに強力ですが、猶予されている税金は「消えた」わけではなく、要件を満たし続けることを条件に支払いを待ってもらっているだけです。もし途中で要件が崩れて認定が取り消されると、猶予されていた税額の全部(または一部)を、あらためて納めることになります。しかも、そのときは本来の税額に加えて利子税(納税を待ってもらっていた期間に応じた利息のような負担)が上乗せされるのが原則です(中小企業庁・国税庁)。利子税の利率はその時々の基準で変わり、経営承継期間の扱いなど例外もあるため、金額は個社の状況によります。

納税猶予が全部または一部打ち切られる主な場面としては、最初の5年間(特例経営承継期間)に後継者が代表者を退任する、猶予対象の株式を譲渡する、会社の総収入金額がゼロになる、資産保有型会社などに該当する、必要な年次報告書や継続届出書を提出しない、といったものが挙げられます(中小企業庁「認定の取消しについて」)。ただし、やむを得ない事情による退任や次の後継者への承継、最初の5年間が過ぎたあとの株式譲渡などには、例外や異なる取り扱いがあり、結果は時期によっても変わるため、個別の確認が必要です。とくに届出忘れによる打ち切りは避けたいところです。報告は、最初の5年間は都道府県へ年次報告書を毎年、税務署へ継続届出書を毎年提出し、その後は税務署へ継続届出書を3年に一度提出する、というように長く続きます(中小企業庁)。承継した本人だけでなく、社内や顧問の専門家と一緒に「いつ・何を出すか」を管理するしくみが要ります。

つまりこの制度は、借入そのものではありませんが、資金繰りの面では借入に少し似た性質があります。目の前の納税は大きく先送りできますが、要件を満たさなくなれば将来まとまった税額を納める必要が出てくる、という「先送りされたリスク」を抱えることになります。だからこそ、制度を使うかどうかは、当面の納税負担を先送りできるかどうかだけでなく、「万一打ち切られたときの納税資金をどう確保しておくか」という財務の備え——まさにリスクファイナンス——とセットで考えるのがおすすめです。具体的には、手元資金、使える融資枠、猶予対象の株式以外の換金できる資産などを踏まえて、資金計画を作っておくことが大切です(猶予対象の株式そのものを売ると、それ自体が打ち切りのきっかけになり得ます)。生命保険を資金源の候補に入れる場合も、打ち切りを理由に保険金が自動で支払われるわけではありません。解約返戻金のある保険を使うなら、解約できる時期や返戻率、解約時の損益・課税、納税期限とのずれを、個別に確認する必要があります。使う・使わないに正解はなく、会社の株価、後継者の状況、家族の意向によって答えは変わります。

自社で書き出してみる設問

答えを出す前に、まず自社の状況を紙に書き出してみてください。考える足場になります。

  1. 自社株を「誰に」「いつまでに」引き継ぐ見通しがありますか。後継者は決まっていますか。
  2. 自社株の評価額は、いまおおよそいくらでしょうか。贈与・相続でかかる税額の規模を、専門家に一度試算してもらったことはありますか。
  3. 特例措置を使う場合、計画提出(法人版は2027年9月末)と株式取得(2027年末)の期限から逆算して、いま何を始める必要がありますか。
  4. もし将来、納税猶予が打ち切られたとしたら、その税額と利子税を払えるだけの資金(手元資金・使える融資枠・猶予対象株式以外の資産の換金可能性など)を確保できていますか。
  5. 年次報告・継続届出を、承継後も忘れずに続けられる管理のしくみは社内にありますか。

まとめ

事業承継税制の特例措置は、自社株の承継にかかる税を大きく猶予できる強力な制度です。令和8年度税制改正で計画の提出期限は2027年9月末まで延びましたが、実際に株式を取得する期限は2027年末のままで、準備に使える時間は限られています。同時に、猶予は免除ではなく「先送り」でもあるという性質を理解し、打ち切られたときの財務リスクへの備えまで含めて判断することが大切です。なお、2027年末で終了するのは特例措置で、条件は異なるものの、通常の一般措置はその後も残ります。石垣島や沖縄の離島でも、家族経営や地域に根ざした中小企業にとって、自社株の承継は身近な課題です。特例承継計画の作成にあたっては、地域の商工会・商工会議所、金融機関、認定を受けた税理士等の「認定経営革新等支援機関」に相談できます(島にもこうした機関があります)。すべての税理士や商工会議所が当然に認定機関というわけではないため、相談の際は認定の有無を確認しておくと安心です。まずは自社の株価と選択肢を「知る」ところから、一歩を始めてみてください。沖縄の会社が、島にいながら制度を使いこなし、次の世代へ事業をつないでいく——その足場になれればと思います。

参考資料

・中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」(特例承継計画の提出期限:令和9年9月30日/贈与・相続による株式取得の期限:令和9年12月31日、猶予割合100%・雇用要件の見直し等)
・中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」申請マニュアル 第4章「認定の取消しについて」
・国税庁「事業承継税制特集」(納税猶予・利子税等の税務手続き)
・財務省「令和8年度税制改正の大綱」/各税理士法人の解説(特例承継計画の提出期限延長:法人版は令和9年9月30日、個人版は令和10年9月30日)

※本文中の期限・要件は、中小企業庁の公表内容にもとづく一般的な整理です。適用の可否や具体的な手続き・税額は、会社の状況や最新の法令・様式によって異なります。実際の制度活用にあたっては、必ず最新の一次情報と専門家の確認をお願いします。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。事業承継税制の適用については、税理士・認定経営革新等支援機関にもあわせてご相談ください。

一般社団法人リスクファイナンス研究所では、事業承継や自社株の税負担、そのリスクへの財務的な備えについての初回相談をお受けしています。「まず自社の選択肢を知りたい」という段階でも、お気軽にお問い合わせください。