海外に商品やサービスを売る中小企業が増えています。そのとき見落としがちなのが、「知的財産(知財=ブランド名や技術、デザインなど、会社が生み出したかたちのない財産)」をめぐるトラブルです。この記事では、知財の争いがなぜ会社のお金を大きく削るのか、そして海外での訴訟対応費用に備える「特許庁が掛金の一部を補助する保険」について、やさしく整理します。

知財の争いは「訴訟対応費用」という重い負担になる

知財のトラブルは、大企業だけの話ではありません。日本商工会議所の調査(2024年8月)では、中小企業の約8社に1社(11.9%)が、知財を侵害された経験があると答えています。

やっかいなのは、争いになったときのお金です。裁判で争うには、弁護士費用や調査・鑑定費用など、さまざまな「訴訟対応費用」がかかります(弁護士費用は、法律上の「訴訟費用」には含まれないため、ここではまとめて訴訟対応費用と呼びます)。国の資料で紹介されたある会社の例では、弁護士費用などに約1,800万円、期間は3年以上かかりました。「勝ったが、本業が手につかず損失は大きかった」という声もあります。

とくに海外では、費用が高くなりがちです。特許庁も、中小企業が対応費用を用意できず、事業の撤退に追い込まれるリスクを指摘しています。海外では、自分では気づかないうちに「他社の知財を侵害した」と訴えられることもあります。

「海外で訴えられたとき」の費用を移す ― 掛金の一部を国が補助

そこで知っておきたいのが、特許庁が支援する「海外知財訴訟費用保険」です。これは、海外で「他社の知財を侵害した」と訴えられたとき、その後にかかる対応費用を保険でまかなう仕組みです(=リスクを保険会社に移す「移転」)。国内での争いや、相手に支払う損害賠償金そのものは対象ではない点に注意してください。

大きな特徴は、国が掛金の一部を補助する点です。補助の割合は、加入時が掛金の2分の1(半額)、2年目以降の更新は3分の1です。2026年は、7月1日始期分から2027年2月1日始期分までが対象です(国の予算の範囲で実施されるため、募集期間や内容が変わる場合があります)。商工会議所・商工会・中小企業団体中央会(の組合など)の会員で、中小企業基本法にいう中小企業にあたり、かつ大企業の子会社などの「みなし大企業」でない会社が対象です。

お金の「備え方」は分けて考えると整理できます。保険は「移転」、手元資金は「保有」。この2つがリスクファイナンスの中心です。国の補助は、掛金の負担を軽くする後押しであって、保険や手元資金そのものではありません。実務では、これらを組み合わせて考えます。

この制度は、全国の商工会議所・商工会・中央会の会員が対象です。沖縄や離島の会員企業も、要件を満たせば使えます。石垣牛や泡盛など、離島の商品やブランドが海外へ広がりつつある今、海外に一歩踏み出す会社ほど、知っておきたい選択肢だと言えます。

自社で書き出してみる

  1. 自社のブランド名・ロゴ・技術のうち、海外でも使う・売る予定のものはありますか。
  2. もし海外で「知財を侵害した」と訴えられたら、その対応費用を手元資金でまかなえますか。
  3. 自社は商工会議所などの会員ですか。会員なら、掛金が補助される保険を使えるか確認しましたか。

まとめ

知財の争いは、勝ち負け以前に「訴訟対応費用」という形で会社のお金を大きく削ります。海外に展開する中小企業には、その費用を保険会社に移す(移転)という選択肢があり、国が掛金の一部(初回は半額)を補助しています。まずは、自社の「守るべき知財」「海外で使う知財」を書き出すことから始めてみてください。

参考資料

  • 中小企業庁「取引における知財の取扱いに係る問題点(知財侵害抑止の強化パッケージ(仮称)の策定)」2024年10月24日(日本商工会議所 資料2/日商LOBO調査 2024年8月)
  • 特許庁「海外知財訴訟費用保険に対する補助」(2026年7月10日更新)
  • 商工会議所会員向け保険制度「海外知財訴訟費用保険制度」

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士・弁理士等の専門家にご相談ください。

当研究所では、自社のリスクの棚おろしや備え方の整理について、初回のご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。