「輸出代金が回収できないとき」に備える ― 中小企業の貿易保険という選択肢
海外に商品を売る機会が広がっています。農林水産物・食品の輸出額は2025年に1兆7,005億円となり、13年連続で過去最高を更新しました。取引が広がるほど、「送ったのに代金が入らない」というリスクも身近になります。この記事では、その備えのひとつ「貿易保険」を、できるだけやさしく整理します。
「輸出代金が回収できない」とは、どういうことか
国内の取引と違い、海外の相手が遠いと、いざというとき代金を取り戻すのは簡単ではありません。回収できなくなる原因は、大きく2つに分けられます。
ひとつは相手先の事情です。取引先が倒産したり、支払期限から3か月以上お金を払わなかったりする場合で、これを「信用危険」(相手の責任で起きるリスク)と呼びます。もうひとつは国の事情です。戦争や内乱、送金の規制、大きな災害などで、相手に払う気があっても送金できない場合で、これを「非常危険」(相手のせいではない不可抗力のリスク)と呼びます。
公的な備え「貿易保険」という選択肢
この2つのリスクに備える公的な保険が「貿易保険」です。運営しているのはNEXI(日本貿易保険)という国が関わる会社です。保険は、リスクを他者に引き受けてもらう「移転」の手立てです。手元資金でしのぐ「保有」とあわせて考えるのが基本になります。
中小企業や農林水産業者には、使いやすい「中小企業・農林水産業輸出代金保険」があります。商品を送った後の「代金回収不能」だけにしぼった、シンプルな保険です。保険料の目安は、契約金額1,000万円・支払い60日の輸出契約1件あたりで、Aカテゴリー国(比較的リスクの低い国)向けなら6万3,400円ほど(約0.63%)、Cカテゴリー国(リスクが中くらいの国)向けで8万2,400円ほど(約0.82%)です(NEXIの2026年3月発行資料によるモデル例。国や取引条件で変わります)。なお、対象となる輸出契約には、契約金額や決済期間などの条件があります。NEXIの提携金融機関から紹介を受けた場合は、保険料が10%割引になります。中小企業者には、取引先を調べる信用調査報告書を無料で取り寄せられるサービス(原則1社8件まで、費用はNEXIが負担)もあります。
「全額が戻る」わけではない、という前提
大切な点があります。貿易保険は、損をした額の全部が戻る仕組みではありません。損失額に「てん補率」(カバーの割合)をかけた金額が支払われ、自己負担が残ります。保険は「まるごと肩代わり」ではなく、「痛手を和らげる」もの、と考えておくと判断を誤りません。
沖縄や離島でも、泡盛や農水産物の輸出、越境EC(インターネットでの海外向け販売)の動きが広がっています。海を越えれば、相手先のリスクも一気に遠くなります。商工会議所の会員向けには、海外取引先の債権回収不能リスクに備える「輸出取引信用保険制度」もあります。取り扱いの有無は、最寄りの商工会議所に確認してみてください。「まず誰に相談できるか」を知っておくだけでも、一歩前に進めます。
自社で考えるための3つの問い
- 今の海外取引で、代金を回収できなかったら、いくらまでなら自社の手元資金で耐えられますか。
- 取引先の信用(過去の支払い状況や規模)を、どこまで確かめていますか。
- 回収できないリスクを、保険で「移す」のか、手元資金で「持つ」のか、どう組み合わせますか。
まとめ
海外取引の「代金が入らない」リスクは、相手の事情と国の事情に分けて考えると整理しやすくなります。貿易保険はその備えの選択肢ですが、全額が戻るわけではありません。保険で移すぶんと、手元資金で持つぶんを、自社の体力に合わせて決めることが出発点です。
参考資料
- NEXI(株式会社日本貿易保険)「保険商品」「保険料の目安」「貿易保険総合パンフレット(2026年3月発行)」
- 農林水産省・JETRO「2025年の農林水産物・食品の輸出額は過去最高の1兆7,005億円」(2026年公表)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。貿易保険の具体的な引受条件やてん補率は、NEXI・提携金融機関等にご確認ください。
輸出取引のリスクの分け方や、保険と手元資金の組み合わせについて迷ったら、初回のご相談だけでもお気軽にどうぞ。