「あの会社が倒産したらしい」——ここ一、二年、そんな話を耳にする機会が増えたと感じている方は少なくないと思います。実際、統計の上でも倒産は増えています。ただ、同じ業種・同じ地域でも、苦しくても踏みとどまる会社と、そうでない会社があります。この記事では、中小企業庁の公表資料や帝国データバンクの企業調査をもとに、「倒産リスクを左右するものは何か」を整理します。そのうえで、自社の体力を測るための視点——とりわけ価格転嫁手元資金という二つ——を、専門用語をかみ砕きながらお渡しします。答えを押しつけるのではなく、ご自身で考えていただくための足場です。

先に、ひとつ計算式を。自社の価格転嫁率のおおよそは「価格へ反映できた金額 ÷ 増加したコスト × 100」で測れます。たとえば年間コストが100万円増え、値上げで60万円を回収できたなら、価格転嫁率は約60%。この記事を読み終えたら、ぜひ自社の数字で一度出してみてください。

まず数字を見る ― 2025年度、倒産はどこまで増えたか

帝国データバンクの集計によれば、負債1,000万円以上の法的整理を対象とした2025年度(2025年4月~2026年3月)の全国企業倒産は1万425件でした。前年度の1万70件から3.5%増え、4年連続の増加、2年連続で年度1万件を超えています。一方、負債総額は約1兆5,538億円と前年度から31.0%減少しました。負債5,000万円未満の倒産が6,475件、全体の62.1%を占めており、小口の倒産が増えていることが分かります(帝国データバンク)。なお、この集計は休廃業・解散や私的整理、負債1,000万円未満の倒産は含まないため、「なくなった会社の総数」ではない点にご注意ください。

倒産の主因では「販売不振」が8,478件で最多となり、売掛金回収難や業界不振などを含む「不況型倒産」は全体の82.5%を占めました。ただし、「販売不振」という分類だけでは、会社の内部で何が起きていたのかまでは分かりません。帝国データバンクは、物価高、人件費上昇、金利負担などのコスト増を販売価格へ十分に転嫁できず、資金繰りが悪化した中小・零細企業が多かったと分析しています。実際、「物価高倒産」は963件と過去最多でした(帝国データバンク)。もちろん倒産の背景は一つではなく、経営者の病気・死亡、後継者難、過大投資、取引先の倒産など、要因は会社ごとに異なります。

分かれ目のひとつ目 ― 価格転嫁「上がった分を、いくら価格に乗せられたか」

価格転嫁とは、仕入れや人件費・エネルギーなどのコストが上がったときに、その分を販売価格に反映することです。難しく聞こえますが、要は「増えた費用を、売値にいくら乗せられたか」という話です。ここが利益を左右し、ひいては会社が持ちこたえられるかどうかにも関わってきます。

では実際どのくらい転嫁できているのか。ここで、調査によって数字が違う点を押さえておくと視界が開けます。中小企業庁の調査は、中小企業等が主要な発注企業との直近6か月の取引について答えたもので、価格転嫁率は53.5%でした(内訳は原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%。労務費が初めて5割に到達)。一方、帝国データバンクの調査は、企業規模を限定せず、各社の主な商品・サービス全体について尋ねたもので、価格転嫁率は42.1%でした。

調査対象も質問方法も異なるため、この二つの数字を単純に比べることはできません。ただ、どちらの調査でも、コスト上昇分をすべて価格へ反映できているわけではない点は共通しています。大切なのは平均値ではなく、自社が何割乗せられているかです。

制度面では、改正された下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」へ名称を変え、2026年1月1日に施行されました。対象となる委託取引では、受託側から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議を適切に行わず一方的に代金を決めることなどが禁止されています。ただし、すべての取引に適用されるわけではなく、資本金・従業員数・取引内容などの要件があります。また、制度ができても自動的に値上げが実現するわけではありません。自社のコスト構造や、根拠のある値上げ幅を説明できる資料を準備できているかが、引き続き現場の分かれ目になります。

分かれ目のふたつ目 ― 手元資金という「時間」

価格転嫁が「利益を守る力」だとすれば、手元資金は「対応する時間を買う力」です。売上が一時的に落ちても、値上げ交渉が長引いても、現金があれば、すぐに資金ショートする可能性を下げられます。企業が資金繰りに行き詰まる直接的な引き金の一つは、「支払うべき日に必要なお金を用意できないこと」です。手元資金が厚いほど、対策を打ち、金融機関や取引先と交渉する時間を確保できます。

手元資金の厚みを見る簡単な指標として、「手元流動性」があります。一般には、現預金や短期で換金できる有価証券を月商(=年間売上高÷12)で割り、「月商の何か月分の資金があるか」を確認します。簡易的には、現金・預金を月商で割っても構いません。ただし、「何か月あれば安全」という公的な一律基準はありません。現金商売か掛け商売か、入金・支払サイト、季節変動、在庫、借入返済、固定費によって必要額は変わります。月商倍率だけでなく、あわせて固定費耐久月数(手元現預金 ÷ 1か月あたりの最低必要支出)——「売上が大きく落ちても、毎月必ず出ていくお金を何か月払えるか」——も確認しておくと、より実態に近い体力が見えてきます。

現金の乏しさが資金繰りに直結する例として、帝国データバンクは「公租公課滞納型倒産」を挙げています。社会保険料や税金の滞納が要因となった倒産は2025年度に221件でした。前年度の269件からは減少したものの、過去10年では2番目に多い水準で、221件のうち215件・97.3%が破産に至っています。税や社会保険料の滞納は、金融機関のリスケジュール(返済猶予)と違い、売掛金や口座が差し押さえられ、かえって資金繰りが一気に悪化することがあります。支払いが難しくなる前に、金融機関や顧問税理士だけでなく、税務署・自治体・年金事務所などへ早めに相談することが重要です。

これは「リスクへの財務的な備え」につながっています

価格転嫁と手元資金は、どちらも会社の財務耐久力を左右しますが、厳密には同じ種類の対策ではありません。手元資金を厚くすることは、損失を自社の資金で受け止める「リスク保有」に当たります。一方、価格転嫁は、コスト上昇を踏まえて収益構造や取引条件を見直す経営上の対応で、損失の発生そのものを抑える営みです。

リスクファイナンス(リスクへの財務的な備え)の中心は、この「保有」と、保険などで大きな損失を外部へ移す「移転」の二つです。加えて、コスト削減や業務改善で損失を小さくする「軽減」——これは厳密には財務ではなく実務面でリスクを抑えるリスクコントロールの領域です——を組み合わせることで、会社全体の耐久力を高めることができます。倒産リスクの大小も、どれか一つではなく、この組み合わせの厚みに表れます。

石垣島・離島という視点から

離島では、輸送費や燃料費が商品・サービスの原価に反映されやすく、価格転嫁は重要な課題です。また、台風や航空・海運の欠航、物流の遅れによって、売上や仕入れが一時的に止まることもあります。数日〜数週間、事業が停滞しても支払いを続けられるだけの手元資金があるか——これは離島で商売を続けるうえでの、静かで確実な備えになります。派手ではありませんが、こうした地味な仕組みづくりこそ、島で長く生き抜く会社の土台だと感じます。

自社で書き出してみる ― 五つの問い

答えを受け取るより、自分の言葉で書き出すほうが、はるかに身につきます。今日、次の五つを紙に書き出してみてください。

  1. この一年で、自社の主な仕入れ・人件費・エネルギー費はそれぞれ何%くらい上がったか。ざっくりでよいので数字を出してみる。
  2. そのうち、実際に販売価格へ乗せられた(値上げできた)割合はどれくらいか。乗せられていない分は、誰が負担しているか。
  3. 価格交渉のとき、コスト上昇を裏づける資料(見積り・単価表など)を相手に示せているか。示せていないなら、何を用意すれば示せるか。
  4. 今、手元の現金・預金は月商の何か月分あるか。さらに、売上が大きく落ちた場合、人件費・家賃・借入返済・税・社会保険料などの支払いを何か月続けられるか。
  5. もし資金が苦しくなったとき、税・社会保険料の滞納より先に相談すべき相手(金融機関・専門家・税務署・自治体など)は誰か。連絡先をすぐ出せるか。

まとめ

2025年度の倒産1万425件という数字は、けっして「運が悪かった会社」だけの話ではありません。背景は会社ごとに異なりますが、上がり続けるコストを価格へ反映する力と、いざという時に対応する時間を確保する手元資金は、倒産リスクを左右する重要な要素です。どちらも、今日から少しずつ測り、少しずつ厚くしていけるものです。数字を眺めて不安になるより、自社の数字を一つ書き出すこと。その一歩が、倒れにくい会社への土台になります。

参考資料

  • 帝国データバンク「倒産集計 2025年度報(2025年4月~2026年3月)」(2026年4月8日)
  • 帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2026年2月調査)」
  • 経済産業省・中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)
  • 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法(取適法)」関係資料
  • 日本政策金融公庫(手元流動性・現預金の考え方に関する資料)

※価格転嫁率は調査主体・調査対象・時期によって数値が異なります。本記事で挙げた各数値はいずれも各調査時点のものであり、単純に比較・合算できるものではありません。手元流動性の目安は実務上よく用いられる考え方であり、公的な一律基準ではありません。適正額は業種・回収サイト・季節変動・借入状況などによって異なります。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社・保険代理店・保険仲立人・税理士等の専門家にご相談ください。

価格転嫁の進め方や、手元資金をどれだけ確保すべきかを自社の数字で整理してみたい方は、一般社団法人リスクファイナンス研究所の初回相談をご利用ください。答えを渡すのではなく、ご自身で判断できる材料をご一緒に整えます。