「後継者がいない」社長へ——全国平均50.1%、引退までに考えたい4つの選択肢
「息子は継ぐ気がない」「社内に任せられる人がいない」——後継者のことは、多くの社長が言い出しにくいまま先送りにしがちなテーマです。この記事で分かることは、次の3つです。
- 後継者不在をめぐる最新の数字
- 引退までに取り得る4つの選択肢
- 早めに動くことが、なぜ会社と家族を守るのか
答えを押し付けるのではなく、ご自身の会社に当てはめて考えるための足場をお渡しします。
後継者不在率50.1%の今、何が起きているのか
帝国データバンクの調査によると、2025年の全国の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し、7年連続で改善しました。後継者が「いない」または「未定」の企業は約13.8万社です。事業承継への関心が高まり、相談窓口や支援制度、M&A、金融機関の支援といった複数の要因が重なって、改善が続いているとされています。つまり、「不在で悩んでいるのは自分だけ」ではありません。同時に、支援制度や相談窓口を使いながら、早めに動いた会社ほど選択肢を広げやすくなっている、というのが今の状況です。
一方で、経営者の高齢化という大きな流れは続いています。かつて中小企業庁は、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、そのうち約半数の127万が後継者未定となる可能性を示していました。現在、後継者不在率そのものは改善傾向にありますが、2025年版中小企業白書でも、中小企業の経営者年齢は依然として高く、60歳以上の経営者が過半数を占めるとされています。つまり、危機感は少しずつ解消に向かっているものの、承継を考えるべき会社の母数はなお大きい、ということです。
もう一つ知っておきたいのが、承継の「担い手」が変わってきたことです。かつて中心だった親族への承継に加え、血縁によらない役員・社員への「内部昇格」や、社外の第三者を迎える承継が増え、いわゆる「脱ファミリー化」が進んでいます。「継がせる相手は子ども」という前提を一度外すと、選択肢はぐっと広がります。
後継者がいない社長の4つの選択肢
後継者を考えるとき、道は大きく4つに整理できます。どれが正解ということはなく、会社の状態・家族の状況・時間軸によって、向き不向きが変わります。
1. 親族への事業承継
子や親族に引き継ぐ、昔ながらの形です。関係者の理解を得やすい反面、本人の意思と適性、そして自社株や事業用資産にかかる相続・贈与の負担をどう準備するかが論点になります。「継ぐ気があるか」を早めに率直に話しておくことが、すべての出発点です。
2. 役員・従業員への社内承継
長年会社を支えてきた役員や従業員に引き継ぐ形で、内部昇格による承継は増えています。事業をよく理解している人に託せる強みがある一方、後継者候補に自社株を買い取る資力があるか、借入の個人保証を引き継げるかといった、資金面の設計が欠かせません。
3. 第三者承継・M&A
社外の会社や個人に引き継ぐ選択肢です。中小企業のM&Aは広がっており、中小M&A支援機関登録制度の集計では、民間のM&A支援機関を通じたM&A件数は2023年度に譲渡側4,681件、2024年度に譲渡側4,940件と報告されています。「身売り」という後ろ向きなイメージは薄れ、従業員の雇用や取引先を守る手段として選ばれることが増えています。ただし、中小M&Aでは、買い手の信用力、従業員の処遇、経営者保証の解除、未払税金や簿外債務の確認など、慎重に見るべき点もあります。相手探しだけでなく、信頼できる専門家を入れた条件整理が欠かせません。会社の状態が良いほど条件は整いやすい、という現実もあります。
4. 廃業
継ぐ人も買い手もいない場合の選択肢です。ここで注目したいのは、休廃業・解散した企業の中にも、まだ資産が残っている会社が多いことです。帝国データバンクの2025年調査では、休廃業企業のうち、保有資産が債務を上回る「資産超過型」の割合は63.4%でした。一方で、休廃業する直前期に黒字だった企業の割合は49.1%と、遡及できる2016年以降で初めて50%を下回っています。つまり、「余力があるうちにたたむ会社」もあれば、物価高や人件費上昇で収益が悪化し、選択肢が狭まってから廃業に向かう会社も増えている、ということです。
廃業は決して「失敗」ではありません。十分に準備して、従業員・取引先・家族への影響を抑えながら閉じることも、経営者の大切な決断です。問題は、他の選択肢を検討しないまま、時間切れで廃業に追い込まれることです。
事業承継税制と経営者保証で確認すべきこと
当研究所の視点でいえば、事業承継は「社長がいつか必ず引退する、あるいは万一のことがある」というリスクへの備えです。もちろん承継は財務だけの問題ではなく、経営権、人材、取引先、金融機関対応が絡みますが、財務面では、自社株、納税資金、生命保険、借入、個人保証をどう設計するかが特に重要になります。
リスクへの備えの中心は「①移転(保険などで外に肩代わりしてもらう)」と「②保有(自社の手元資金で受け止める)」の2つです。たとえば、経営者に万一があったときの生命保険は「移転」の一例です。ただし、契約者・受取人・保険金額・税務処理を誤ると、思った効果が出ないこともあります。自社株の納税資金や当面の運転資金をどう確保するかという「保有」の視点と合わせて設計する必要があります。なお、被害そのものを小さくする「③軽減」は、厳密にはリスクコントロールの領域で、実務ではこの3つを組み合わせます。
制度面では、覚えておきたい追い風が2つあります。1つは法人版事業承継税制の特例措置です。一定の要件を満たせば、非上場株式に係る贈与税・相続税について、納税の猶予・免除を受けられる可能性があります。ただし、入口となる特例承継計画の提出期限は令和9年(2027年)9月30日まで、実際に贈与・相続により株式を取得する期限は令和9年(2027年)12月31日までです。計画の提出期限は延長されていますが、株式の承継期限まで延びたわけではない点に注意が必要です。要件やデメリット、個社への向き不向きは複雑なので、適用の判断は税理士等の専門家に相談してください。
もう1つは経営者保証への対応です。借入金の個人保証は、後継者が承継をためらう大きな理由になってきました。「経営者保証に関するガイドライン」の特則では、事業承継時に前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないことが原則とされています。もっとも、保証解除の可否は、会社の財務内容、資金使途、金融機関との取引状況によって変わります。早めに決算書を整え、金融機関と対話することが重要です。また、2024年3月からは、信用保証付融資について、一定の要件を満たす中小企業者が保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる「事業者選択型経営者保証非提供制度」も始まっています。代表者への貸付金がないこと、財務内容が一定水準にあることなどの要件があるため誰でも使える制度ではありませんが、承継前から財務を整えておく意味は大きくなっています。
沖縄・離島の中小企業こそ早めの承継準備を
石垣島をはじめとする離島では、そもそもの事業者数が少なく、地域内で後継者や買い手を見つけにくい面があります。一方で、その事業がなくなると地域の暮らしや雇用に直結する、という重みもあります。たとえば、島の整備工場、飲食店、宿泊業、建設業、小売店などは、1社がなくなるだけで地域の生活インフラに影響することがあります。都市部なら代わりが見つかる事業でも、離島では「その会社があること」自体が地域のリスク対策になっている場合があるのです。だからこそ、島外・県外・オンラインまで視野を広げて相手を探すこと、そして「まだ続けられるうちに」動き出すことが、本土以上に効いてきます。
まず書き出したい5つの問い
答えを急ぐ必要はありません。まずは紙に書き出してみてください。
- 自分は、あと何年、今のように経営に関わるつもりか(時間軸)。
- 4つの選択肢(親族・社内・第三者・廃業)のうち、今の気持ちに近いのはどれか。その理由は。
- 後継者候補がいるなら、その人と「継ぐ意思」について、率直に話したことがあるか。
- 自社株や事業用資産の価値、借入と個人保証の状況を、数字で把握できているか。
- もし自分に万一のことがあったら、来週から誰が会社を回すのか。
まとめ:早く動いた会社ほど、選択肢を残せる
後継者不在は改善に向かっていますが、それは支援制度を使いながら早めに動いた会社ほど解決に近づいている、ということでもあります。承継も、M&Aも、税制や保証の活用も、時間があるほど選べる手が増え、条件を整えやすくなります。まずは上の問いを書き出し、会社の数字を棚卸しするところから始めてみてください。「どの選択肢が自社に合うのか、何から手をつければいいのか分からない」という方は、当研究所の初回相談もご活用ください。
参考資料
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月)
- 帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2025年)」(2026年1月)
- 中小企業庁「2025年版 中小企業白書」第9節 事業承継
- 中小企業庁・中小M&A支援機関登録制度「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」
- 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」(特例承継計画の提出期限延長を含む)
- 中小企業庁・経営者保証に関するガイドライン研究会「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」
- 中小企業庁「事業者選択型経営者保証非提供制度」
本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約・税務判断・資金繰り・投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて、保険会社、保険代理店、保険仲立人、税理士等の専門家にご相談ください。当研究所でも、事業承継やリスクの棚卸しに関する初回相談を承っています。