この記事では、リスクファイナンスを「保険を選ぶ話」ではなく、「会社を止めないためのお金の設計」として整理します。読み終わるころには、自社でまず何を書き出せばよいかが分かるはずです。専門用語はできるだけ噛み砕いて説明します。

リスクファイナンスとは「もしもの時のお金の備え方」

経済産業省の資料では、リスクファイナンスは「リスクが現実になったとき、企業経営への悪影響をやわらげたり防いだりする財務的手法」と整理されています。これをふだんの言葉に直すと、「もしもの時に、会社がお金で困らないようにする備え方」です。火災保険もそのひとつですが、それだけではありません。

リスクへの対応は「移転・保有・軽減」で考える

中小企業の実務では、まず次の3つに分けて考えると分かりやすくなります。

① 移転する(うつす)

リスクを自分以外に肩代わりしてもらう方法です。代表が保険。火災保険、地震保険、事業休業時の損失を補う保険、サイバー保険など。保険料を払う代わりに、もしもの時の損失を保険会社に引き受けてもらいます。

② 保有する(自分で持つ)

あえて自分で備える方法です。いちばん身近なのが手元の現金(内部留保)。すぐ使える現金がある会社は、多少のトラブルでは倒れません。「自前の保険」とも言えます。大企業が使う「キャプティブ(自社グループの保険会社)」も、グループ内でリスクを一定程度保有しつつ、必要に応じて再保険などで外部に移転する仕組みです。中小企業がすぐ導入するものではありませんが、「どこまで自社で持ち、どこから外に移すか」を考えるヒントになります。

③ 軽減する(減らす)

そもそもリスクが起きにくく、起きても被害が小さくなるように手を打つ方法です。BCP(事業継続計画)、設備の点検、拠点の分散、止水板の設置などがこれにあたります。

このうち、リスクファイナンス(財務的な備え)の中心は、①移転すること②保有することです。③軽減することは、厳密には「リスクコントロール」の領域ですが、実務ではこの3つを組み合わせて考えることが大切です。保険に全部おまかせでもなく、現金だけで耐えるのでもなく、起きる前の対策も含めて、自社に合ったバランスを設計する。それが、経営者にとってのリスクファイナンスの入口です。

なぜ今、中小企業にリスクファイナンスが必要なのか

理由は3つあります。

ひとつは、保険料に上昇圧力がかかっていること。たとえば火災保険のもとになる「参考純率」は、2019年に平均4.9%、2021年に平均10.9%、2023年に平均13.0%引き上げられています(損害保険料率算出機構)。ただしこれは参考純率の話であり、実際に契約者が支払う保険料の改定率とは異なります。それでも、自然災害の増加や修理費の高騰などで、保険料を取り巻く環境が厳しくなっているのは間違いありません。「移転(保険)」だけに頼ると、コストが重くなっていきます。

ふたつめは、金利が動き出したこと。日銀は2025年12月、短期金利の誘導目標を0.75%程度へ引き上げました。変動金利の借入や新規の借入では、今後の金利上昇が資金繰りに影響する可能性があります。だからこそ「借りれば何とかなる」だけでなく、「保有(手元現金)」の厚みがこれまで以上に重要になります。

みっつめは、国も後押しを始めたこと。金融庁・経済産業省を事務局とする検討会は2026年4月、企業のリスクマネジメント高度化に関する報告書を公表し、キャプティブやCATボンドなどの手法にも触れています。これらは現時点では大企業向けの色合いが強い手法ですが、「保険だけに頼らず、保有・移転・予防を組み合わせる」という考え方は、中小企業にも十分応用できます。

離島・地方には、少し違うリスクがある

たとえば石垣島や沖縄の離島では、台風、停電、物流の遅れ、観光客数の急減、人材確保の難しさなど、本土とは少し違うリスクがあります。一方で、地域のつながりが強く、助け合いが機能しやすい面もあります。だからこそ、自社だけでなく、取引先・従業員・地域との関係も含めて「どこが止まると困るのか」を見える化することが大切です。

まずは自社の「リスク地図」を書いてみる

答えを外から買う前に、まず自社のリスクを書き出すことをおすすめします。次の3つの問いに、紙一枚で答えてみてください。

  1. もし1か月、売上がゼロになったら、うちは何か月もつか?(目安:手元現金 ÷ 毎月必ず出ていくお金=人件費・家賃・リース料・借入返済・最低限の仕入や外注費など)
  2. 止まったら一番困る仕事は何か? その仕事に必要な「人・場所・データ・お金」は何か。
  3. 今かけている保険は、①移転・②保有・③軽減のどこを埋めていて、どこが空いているか。

この3問に答えるだけで、「保険をかけすぎている部分」と「無防備な部分」が見えてきます。リスクファイナンスは、そこから始まります。

まとめ:保険を買う前に、リスクの全体像を見る

リスクファイナンスは、保険を選ぶ話ではなく、会社を止めないためのお金の設計です。まずはこの記事の3つの質問を紙に書き出してみてください。「どこから見直せばよいか分からない」「保険と手元資金のバランスを見たい」という方は、当研究所の初回相談もご活用ください。

次回は、多くの経営者が更新のたびに頭を悩ませる「事業用の火災保険」を取り上げ、上がり続ける保険料とどう向き合うかを具体的に解説します。

参考資料

  • 経済産業省「リスクファイナンスの発展に向けて」
  • 金融庁・経済産業省「企業のリスクマネジメントの高度化に向けた検討会 報告書」(2026年4月)
  • 損害保険料率算出機構「火災保険参考純率 改定のご案内」
  • 日本銀行「2025年12月 金融政策決定会合での決定内容」

本記事は一般的な情報提供であり、個別の保険契約、税務判断、資金繰り、投資判断等を助言するものではありません。実際の判断は、自社の状況に応じて専門家にご相談ください。当研究所でも、リスクの棚卸しに関する初回相談を承っています。